2004年10月16日号(第150号) ブータンの民族衣装 （写真つきオリジナルバージョンはここからご覧になれます） 　　「週刊マミ自身」は、今週号をもちまして、お蔭様で第150号を迎えることができました（パチパチパチ……）。 　これもひとえに、日頃から当サイトをご贔屓くださっている皆さまのお蔭です。本当にありがとうございました♪ 　あれは、そうです、忘れもしません。今から4年前の、2000年9月9日のことでした。 　日頃から「9」をマイ・ラッキーナンバーとしている私が、「九のゾロ目は縁起がいいから、始めるなら九月九日から」と言って当ホームページを立ち上げたのは。 　その頃の私は、まだニューデリーに住んでおりました。 　今にも脳みそが沸騰してしまうのではないかと思われる、狂気にも似た猛暑の中で、あのとき私は、よくもホームページを作ろうなんて酔狂かつ無鉄砲なことを考えついたものです。 　首都ニューデリーの街中でさえ、毎日あたりまえのように起こる停電。 　風と共に降ってくる黄砂（※これがコンピューターの内部にまで入り込んで深刻な故障の原因となるのですね）。 　すぐにダウンするサーバー（しかも一旦ダウンしたが最後、いつ復旧するかは神のみぞ知る）。 　故障箇所を直しに来たはずが、何故か逆にコンピューターを壊してゆくエンジニア（苦笑）。 　……などなどなどなど、日本からは想像もできないほど劣悪な環境での、それこそ青息吐息のホームページ作りのスタートでした。 　そのときは、このホームページがいつまで続くのやら見当もつきませんでしたが、幸いにも、今回こうして第150号まで漕ぎ着けることができました。 　これからもますます楽しいホームページを目指して参りますので、今後とも変わらぬご愛顧の程を、なにとぞ何卒よろしくお願い申し上げます。 　さてさて。 　今週の私は、インドの北東、ヒマラヤの山中に位置するブータンからのお客さまを二人ほどお預かりしているため、ほぼブータン一色といった感じの毎日を過ごしております。 　今回、日本にいらっしゃっているのは、首都ティンプーにある王立美術学校のジグミ学長と、そこから約700キロ離れたパロという場所にある王立美術学校のラム学長。 　お二人は、祖国ではすっかり廃れてしまった岩絵の具を使った伝統画法などを研修するため、日本ブータン芸術委員会の招聘で、日本に来ていらっしゃるのです（※私も同委員会の理事を務めています）。 　というわけで今週の「週刊マミ自身」では、ラム学長とジグミ学長の来日を記念して（？）、美しいブータンの民族衣装と、その着付けの方法をご紹介しましょう。 　ブータンの衣装は日本の着物に似ているとよく言われますが、私はむしろ、「ブラウスの襟の合わせ方や袖の感じは着物に、スカートの巻き方はインドのサリーにどこか似ている」と思いました。 　何はともあれ、百聞は一見にしかず。日本ではなかなか見かける機会のないブータンの民族衣装の着付け方を、とくとご覧くださいネ。 　用意するものは、恐ろしく袖の長いブラウスと、やはり袖の長い上着、体に巻きつけてスカートにするための一枚布、どことなく兵児（へこ）帯と似通った雰囲気の帯、それに専用のピンです。 　そのような次第で、どうやらブータンの民族衣装をひとりで着ることができるようになった私。 　折しも今週木曜日（10月14日）には、現在来日中のブータン国王王妃をメイン・ゲストとする大きなパーティーへのご招待状を頂いておりました。 （せっかく王妃とお目にかかれるのならば、私もブータンの民族衣装を着て、正装で敬意を表さなくては） 　そう考えて、今回は民族衣装でパーティーに臨みました。 　これを着ていたせいか、当日はパーティー会場で大勢の人からブータン語で話しかけられました。 　ちなみにブータン語は私が今勉強しているチベット語と非常によく似ています。ラム学長いわく、 「チベット語をマスターできたら、自動的にブータン語の80パーセントは理解できるでしょう」 　うーん。それなら猶のこと真剣に、チベット語を勉強しなければいけません。 　どうやら今年は、私にとって最強のヒマラヤの年になったようですネ。 　ではでは♪ 　 　事事如意 　　　　　2004年 10月16日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年10月10日号(第149号) キャリア・ガイダンス〜作家への道のり 　先日、都内の某インターナショナル・スクールから頼まれて、キャリア・ガイダンスの講師としてレクチャーをして参りました。 　キャリア・ガイダンス、即ち進路相談です。 　今回のガイダンスは、そろそろ進路について真剣に考え始めた8年生（中学2年生）を対象に、さまざまな職業の人がそれぞれの体験を具体的に語るというもの。 　講師陣は、弁護士、エンジニア、英字新聞の記者、ファイブスター・ホテルの総支配人、商社マン、医学博士、外交官、それに作家（私）という顔ぶれになりました。 　学校からのオーダーは、 「どうしたら作家になれるのか、作家の日常とはどんなものか、作家ならではの珍エピソードなどがありましたら、ぜひ生徒たちに聞かせてやってください」 というもの。 　正直なところ、弁護士やエンジニア、新聞記者、ホテルマン、商社マン、医者、外交官といった職業と比べた時、作家という仕事は異色と言うか、浮世離れしているというか、およそ非現実的な職業です。 　例えば、お医者さんやエンジニアがいなくなれば、世の中は間違いなくその日のうちに大混乱に陥りますが、作家がいてもいなくても大勢に影響はないでしょう（苦笑）。 　要するに、作家とかアーティストとかミュージシャンとか、いわゆる“文化人”と呼ばれる人たちの仕事って、この世にあってもなくても構わない、実に奇妙なものと言わねばなりません。 　学校側からのオーダーに対して、私はあらかじめ次のように申し上げておきました。 「では、レクチャーの順番は私を最後にしてください。だって作家は、弁護士や商社マンと比べたら、生徒さんたちが将来就職する確率が最も低い職業なんですから」 　というわけで、当日は私がトリをつとめることになりました。 　朝の8時15分という、恐ろしく早い時刻に始まったキャリア・ガイダンスに集まってきたのは、8年生の生徒たち。インターナショナル・スクールの生徒だけあって、肌の色も、髪の色も、目の色も十人十色。 　さすがに体格の良い子が多く、女の子でも優に180以上ありそうなモデル体型の子が何人もいて、 （こんなことなら、芸能プロダクションかモデル事務所の社長も講師として呼んでおいたほうが良かったのでは？） などと真剣に思っちゃいましたよ（笑）。 　私の前に話した講師たちは、さすがに競争率の高いインテリ職業揃いだけあって、かなりシビアなお話をなさっていました。 　大学でどのような科目を専攻したか、それ以前に高校時代の成績はどうだったか（皆さん高校時代は「オールA」またはそれに近い成績だったようです）、就職するためには具体的にどのようなライセンスが必要で、そのライセンスを取るためにはどの大学に進学するのが得策か、などなど、見事なまでにアカデミックなお話のオンパレードでした。 （うーん。エリート職業の人たちは、さすがに学校時代から半端じゃない努力をしていらっしゃったのねぇ） 　私はただただ、ひたすら感心。 　なにしろ学生時代の私ときたら、長野県でいちばん歴史が古く進学率の高い女子高に進学したはいいけれど、そのあとは3年生の12月末まで部活（英語劇）と生徒会活動に明け暮れ、まったくもって受験勉強はしませんでしたから、ハイ。 　先生方からも、「お前のように勉強しない生徒は、学校始まって以来だ」と、怒りを通り越して呆れられていましたので。 　そればかりじゃありません。 　私は生まれてこのかた唯の一度も就職活動をしたことがない人なのです。 　「学生時代は一途に勉学に励んだ」「就職のために全力を尽くした」という講師たちの話を、まるで他の天体からやってきた宇宙人の話でも聞くような気分で拝聴しておりました。 　ひぇ〜。こんな立派な講師の皆さんのあとで、いったい何をお話したら良いものやら。 　念のため、私のレクチャーを始める前に「この中で作家志望の人はいますか？」と質問してみたところ、なかなか利発そうな顔立ちの生徒が、なんと3人もサッと手を挙げたのには、正直言って驚きましたね。 「私の話は、適当に聞いておけばいいですからね。なにしろ作家の話なんて世界で一番当てにならないんですから」 と彼らによくよく言い含めてから、私は開き直ってレクチャーを始めたのでした（笑）。 　当日私が話したことを、一応の覚書として下に書いておきます。 　これをお読みになっても「作家になるための手引き」としては全く使い物にならないと思いますが、ひょっとしたら何かの参考ぐらいにはなるかも知れませんので……。 ―キャリア・ガイダンスにおける山田真美の発言内容― ところ／東京都内の某インターナショナル・スクール 対象生徒／8年生全員（日本の中学2年生に相当） （1）作家になろうと思ったきっかけ 　小4の夏休みに、学校から一人一研究の宿題が出ました。 　多くの子が「蟻の研究」とか「アサガオの研究」など理科の研究をする中、私は『のら犬のぼうけん』など5編の短編童話を書いて、一冊の本（もちろん手づくり）に綴って提出したのです。 　表紙の犬の絵も、水彩絵の具を使って自分で描きました（注／その犬は何故かブースケそっくりで笑ってしまうのですが）。 　なお、この学校で夏休みの一人一研究に童話を書いた生徒は、私が初めてだったそうです。 　夏休み明け、私が学校に持って行った『のら犬のぼうけん』は、先生や同級生の間で大好評。サインを求める人たちまで現われて、私はその場で、「将来は作家になって長編小説を書くから、楽しみにしていてね」と宣言したのでした（笑）。 　これが、私が作家になろうと決心したきっかけです。あれは忘れもしない、9歳の夏の出来事でした。 （2）学校でどんな勉強をしたら作家になれるか 　弁護士や医師と違い、作家になるためのライセンスというものは存在しません。また、学歴も必要ありません。 　例えば、超一流大学で博士号を2つ以上習得していても作家になれますし、中学や高校で落ちこぼれてしまった人も作家になれるわけです。 　事実、学校での成績がメチャクチャ悪かったという作家を、個人的に何人か知っています（笑）。 　私の場合は、日本の大学の経済学部を卒業したあと、オーストラリアの大学院で海洋学（南半球におけるマッコウクジラの回遊）を、さらにインドの大学院でインド哲学を専攻しました。合計3つの全く異なる学問を学んだことになります。 　作家には、読者を満足させられるだけの人生経験（質量共に）が絶対に必要ですから、3つの大学で学んだことは非常に意味があったと思っています。 　また私は日頃から、自分の興味関心のあるエリアは徹底的に研究するタイプの人間で、これまでに20ヶ国語以上の外国語を勉強しました。 　今日、こうして皆さんの前で英語でレクチャーができるのも、そういう勉強をしておいたお蔭ですネ。 　なお、これは余談ですが、近い将来からは日本語だけでなく英語で本を書き下ろすつもりです。期待していてください。 （3）作家になるための具体的な手段 　しつこいようですが、作家になるための「ライセンス」のようなものは存在しません。 　だからこそ、作家になるための方法は無数にあるし、非常に茫漠たるものだと言えるでしょう。 　その中で、作家になるための最も一般的な手段は、おそらく文学賞のコンテストに応募することではないでしょうか。 　こういった新人発掘のためのコンテストは、日本だけでなく、非常に多くの国にあるようです。 　このほかに、書いた原稿を出版社あるいは編集者宛に直接送るという方法も、あるにはあるようです。 　でも、一般的に言って、出版社の皆さんはいつ見ても非常にお忙しそうですので、送った原稿が本当に読んでもらえるのかどうか、そのあたりのことは私はよくわかりませんが。 　最悪のパターンは、自分から勝手に原稿を送りつけておいて、「あの原稿、いかがでしたか？　出版してもらえますか？　ダメなら、せめて感想だけでも聞かせてください」などと、しつこく返事を催促するケースでしょう。 　こういうことは、絶対にしてはいけないと思います。 　なお、私自身の場合は、上記の「コンテストに応募する」「原稿を出版社に送る」という2つの方法のうちの、どちらも試したことはありません。 　では、どのようにして原稿を依頼されるようになったかと言いますと、その始まりは次のような具合でした。 　私がオーストラリアに留学していた1982〜83年と言えば、「ホエール・ウォッチング」などがブームになる前でしたし、海外留学自体が珍しい時代でしたから、「オーストラリアでマッコウクジラの回遊の研究をしている若い日本人の女の子」というだけで、かなりのインパクトとニュース性があったらしいのですネ。 　もっとも、私自身はそんなつもりではなく、ただ純粋な学問的好奇心から留学していたに過ぎないのですが。 　ある日、日本の某新聞が私のことを取材に来まして、その記事は写真入りでわりと大きく報道されました。 　新聞記事が出た翌日には、NHKからもニュース取材の申し込みがあり、さらにその翌日には、某新聞社から「文化欄にオーストラリア留学記を連載してみないか」という依頼が来たのです。 　それが、私が生まれて初めて原稿料をいただいて書いたエッセイです。23歳の時のことでした。 （4）作家になるための条件は 　思うに、作家になるために絶対に必要なファクターは、一に書く才能、二に運ではないでしょうか。 　オリジナリティーがあって面白い本が書けるのは、作家なら当たり前のこと。それと同じぐらい重要なのは、出版界の中で重要なポジションにある誰かが、あなたの作品を認めてくれるということです。 　アメリカの出版界なら一流のパブリシスト、日本の出版界なら一流の編集者に認めてもらうことが極めて重要です。 　パブリシストや編集者とは、プロデューサーとしての役割を担った人々であり、こうした人たちと巡り合えない限り、作家がきちんとした形で本を出してゆくことは、実際問題として不可能なのです。 　たとえば本屋さんのフロアを思い出してみてください。フロア面積にはおのずから限りがあり、無制限の冊数の本を搬入することは不可能です。 　実際には、「ここからここまではＡ出版社の棚」「そこからそこまではＢ出版社の棚」というように、力のある出版社が棚の大部分を占拠していますから、力のない出版社から本を出しても、なかなか目立つところには置いてもらえません。 　目立たなければ買ってもらえませんから、せっかく努力して書いた本も、多くの人に読んでもらうことなく埋もれてしまうのです。これは実に勿体ないことです。 　良い本が書けたら、大勢の人に読んで頂かなければあまり意味がありませんが、それはもはや作家の仕事ではなく、パブリシストや編集者にして頂くお仕事なのです。 　良い人たちとのご縁。これこそは、作家になるための絶対条件だと言い切れるのではないでしょうか。 　……キャリア・ガイダンスの当日に私がお話したことは、大体、以上のとおりです。 　このレクチャー内容が、「作家とはどんな職業か？」という問いかけに対する満足な答えになっているとは思えませんが、少なくとも「週刊マミ自身」を読んでくださっている皆さんには、私が今日まで歩いて来た道のりを、ほんのちょっぴり垣間見て頂けたのではないかと思います。 　ご清聴、ありがとうございました（笑）。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2004年 10月10日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年10月2日号(第148号) 集中力の秋 　約1年半ぶりで、このサイトのトップページのデザインを変えてみました。 　これまでの、「ビーチで麻雀をするマミリン先生＋ブースケ＋パンダ＋口髭の男」のイラストが、いきなりチベット寺院の写真に変わっていて、吃驚なさった方もいらっしゃるかも知れません。 　楽しいオリジナル・イラストを提供してくださった金之助さん、長期間にわたって本当に本当にありがとうございました♪ 　機会がありましたら、また是非とも新作を描いてくださいネ！ 　今週から新しくお目見えしたチベット寺院の写真は、先月インドのダラムサラでダライ・ラマ法王に謁見する前々日に、写真家の森川昇さんが撮影してくださったものです。 　ダラムサラ市内には、「ノルブリンガ」という美しい場所がありまして、その敷地内にはチベット寺院、チベット風の庭園、チベット風のホテルとレストラン、それに良質な民芸品を扱うショッピングセンターなどが配されているのです。 　写真は、チベット寺院の2階ベランダ部分に立って仏画に見惚れている私です。 　今後はこの写真が当ホームページの“顔”になりますので、どうぞお見知りおきくださいマセ。 　さてさて。今週も私の身辺では、色々なことがありましたよ。 　その中のハイライト部分だけを列挙しますと、チベット語の教室に初めて顔を出したほか、ちょっと高度な帯の締め方を特訓したり、東方学院の故・中村元先生のお弟子さんからサンスクリット語の仏典についてご教示いただいたり、来年出版予定の本の執筆準備をしたり。 　まさに手先と脳みそ使いまくりの1週間（笑）でございました。 　きれいに帯を締めるには、何よりも精神力というか、集中力が必要ですね。 　なにしろ、自分の背後で起こっていることを、手指の感覚と勘だけで知覚しなくてはならないわけですから。集中力を養うための訓練としては、かなり有効かも知れません。 　今週はこのほかに、カウラ事件の番組制作で新たな展開がありました。 　「週刊マミ自身」第142号でもお知らせしましたとおり、現在私はＮＨＫスペシャル「カウラの大脱走〜オーストラリア日本兵捕虜・60年目の証言」という110分番組の制作に携わっています。 （※当初12月に予定されていた放送は、局のご都合で、終戦60周年にあたる2005年に延期になりました。何卒ご承知おきください） 　ところがつい最近になって、今度はオーストラリアの映画プロダクションから連絡がありました。 　なんと、カウラ事件をテーマにオーストラリア側が制作しているドキュメンタリー番組の制作を手伝って欲しいという依頼なのです。 　たいへん有意義なお話ですから、一も二もなくお引き受けしました。 　ＮＨＫの番組が、日本人が日本人の視点でつくっているカウラのドキュメンタリーであるのに対し、こちらはオーストラリア人がオーストラリア人の視点でつくるカウラのドキュメンタリーです。 　その双方を、“制作者として”内側から体感できるとは、なんて幸運なことでしょう！ 　というわけで、今月下旬には早くも西日本を中心としたロケが行なわれることになり、今日は土曜日だというのに、その準備に励んでいる私なのでした。 　ロケ現場の様子などは、またこのページでご報告いたします。 　長い酷暑も終わり、気持ちのよい秋になりました。皆さん、それぞれに楽しい週末をお過ごしくださいネ。 （私は、今日はこれからチベット語の教室、明日はお茶のお稽古です） 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2004年 10月2日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年9月25日号(第147号) 大島紬とブースケ柄の帯 　前から欲しかった本場の泥大島を、先日、思いきって買いました♪ 　そんなわけで、今日はその御報告です。 　あまり着物に関心のない方のために申し上げますと、大島紬という着物は、値段は思いっきり高いけれど、用途はあくまでもカジュアル。 　つまり、フォーマルなパーティーや結婚式といった、いわゆる「ちゃんとした所」には着て行けない着物なのです。 　では、大島紬を着て行っても大丈夫な場所はどこかと言いますと、代表的な例は、気の置けない友達との会食。それから、歌舞伎やお能の鑑賞（←こういう粋な場所で大島を着るのは特に◎）。 　ただし、たとえ趣味の世界でも、きちんとしたお茶席で大島はNGです。自分がお手前をする場合や正客（ファースト・ゲスト）として招かれている場合は特にダメ。 　要するに、あくまでも遊びの場所でしか着ることが許されない、しかも一般的には訪問着や振袖なんかよりぐっと値の張る、まさに究極の趣味の着物、それが大島紬って感じなんですネ。 　で、何はともあれ、百聞は一見にしかず。まずは下記URLから、私のおニューの大島をご覧ください（笑）。 　http://www.yamadas.jp/mami/oshima.html 　この着物と帯の取り合わせなら、帯揚げと帯〆は、手堅く辛子色や渋めのオレンジでも良いのですが、それでは面白くないので、ここはぐっとモダンにターコイズ・ブルーあたりで攻めてみたいと思います。 　足元は黒塗りのベンツ、じゃなかった、黒のエナメル草履。バッグは黒革、または黒のオストリッチということで。 　この秋、ブースケ柄の帯を締めて銀座能楽堂のあたりを歩いている人がいたら、それは99.999パーセントの確率で私です（笑）。遠慮せずに、是非ともお声をかけてください。 　お能といえば、これからの季節、いちばん観たい演目は「紅葉狩り」あたりでしょうか。 　いいですよ〜、「紅葉狩り」。 　舞台は信州・戸隠（ちなみに私の山小屋が戸隠の近くです）。 　鬼女退治のために都からやって来た平維茂ら一行が山道を歩いていると、やんごとない貴婦人風の女たちが紅葉狩りしています。 　美女から勧められるままに酒を飲み、すぐに酩酊してしまう維茂（こんな山奥で貴婦人が宴会をしていること自体が、そもそも不自然なのにねえ。維茂は、わかりやすい男性ですね（笑））。 　案の定、美女と思った相手は、実は鬼女。酔い潰れたところを殺されそうになった、維茂の運命やいかに！？ 　一面の紅葉の朱と、鬼女と維茂の一騎打ちの場面が、なぜか夢幻のように美しいお能です。 　機会がありましたら、是非ともご覧ください。これからの季節に最高ですから。 　さて、明日は初めてのチベット語の教室（初級クラス）です。 　「この次にお目にかかる時は、チベット語でお話したいと思います」などとダライ・ラマ法王にお約束してしまった手前、来年の春までには、何が何でもチベット語の一般会話をマスターしなければ！ 　というわけで、今年の秋のテーマは「芸術と学問」に決定！ 　ヒンドゥー教で学問（特に言語）を司る女神とされるサラスヴァティー（日本でいうところの弁才天）のご利益が、もっともっと欲しい私なのでした。 　ではでは♪ ＜追伸＞ 　現在、シーズー柄の半襟を探しています。 　お心当たりのある方は、boosuke@badboy.co.jpまで何卒ご一報ください。 　事事如意 　　　　　2004年 9月25日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年9月16日号(第146号) ダライ・ラマ法王からの贈り物 （写真つきオリジナルバージョンはここからご覧になれます） 　ダライ・ラマ法王への単独インタビューという大仕事を終えて、本日、無事に帰国いたしました。 　今回の取材旅行は、日数にして8日間という短いものでしたが、その内容は、かつてなかったほど濃密で完成度の高いものとなりました。 　インタビューの舞台となったダラムサラへは、デリーから北に向かって車に揺られること14時間。 　ヒマラヤの裾野にあたるこの町には、1959年以来チベット亡命政府（Tibetan Government in Exile）が置かれており、そこが即ち、チベット仏教で観音菩薩の化身とされるダライ・ラマ法王の現在のお住まいです。 　法王へのインタビューは9月13日の午後2時から、チベット亡命政府本部の謁見の間で執り行なわれました。 　私はこれまでに二度ほど法王の説法を直接拝聴したことがあるのですが、一対一でお話させて頂くのはこれが初めてです。 　ダライ・ラマ法王は想像していた以上にフランクかつチャーミングな方で、会見は信じられないほど和気藹々と進みました。 　今回、ダライ・ラマ法王へは、近年になって増え続ける自殺や、最近の日本で起こった猟奇的な殺人事件などを含む「現代の死」に関する質問をストレートにぶつけてみました。 　その内容は11月6日発売の『和樂』12月号で特集されるほか、「死」をテーマとしたノンフィクション『死との対話』（11月20日頃全国発売予定）の巻末にも収録されますので、今暫くお待ちくださいネ。 　ところで私は今回、法王からたいへんな贈り物を頂いてしまいました。それは、「ジャムヤン・ラモ」というチベット名です。 　ジャムヤン・ラモとは、チベット語で聡明な女性という意味。 　私にはもったいない、立派過ぎるほど立派な名前を頂き、恐縮の極みですが、法王からこのようなお名前を頂戴したからには、これからは今まで以上に良い仕事をしなければと、深く肝に銘じた次第です。 　本当に嬉しいことに、法王からは「来年の春にまた逢おう」とお声をかけて頂いてもおります。 　折角の素晴らしい機会ですから、この次に法王とお目にかかる時までにチベット語を勉強し、この次はチベット語で会話ができたらいいな、と思っております。 　新たなる目標に向かって、明日から早速頑張りますよ♪ 　なお、上述の『死との対話』は、おそらく日本で一番新しい出版社であるスパイスから発売される予定です。 　スパイスとは、私が3年3ヶ月前から二人三脚で仕事をしてきた編集者の芝田暁さんがつい先ごろ設立なさったばかりの、まさに生まれたばかりの出版社です。 　『死との対話』は、記念すべきスパイスの第一号作品として世に出して頂くことになりました。 　出版の詳細は決まり次第お知らせいたしますので、皆さま、どうぞよろしくお願いいたします。 　それでは、今日はこれでタシデレ♪ （※タシデレ＝チベット語で「こんにちは」「さようなら」「おめでとう」などを意味する挨拶の言葉） 　事事如意 　　　　　2004年 9月16日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年9月6日号(第145号) ダラムサラへの道 　ダライ・ラマ法王への単独インタビューが数日後に迫り、そろそろインド行きの準備を始めなければ……と思いながらも、実際には日常の雑事に追われ、荷作りもお土産の買い物も手つかずのまま、相変わらず忙しく走り回っております。 　もっとも、私の旅支度は本当にシンプルですから、30分もあれば荷造り完了しちゃうんですけどね。 　それに、足りないものは現地調達をモットーとしていますので、パスポートと航空券さえあれば何とかなるさと、至って気楽に構えております。 　なにしろ世の中、便利になりました。世界中どこへ行ったって、必要最低限の品はおおかた手に入ります。 　歯ブラシ、歯磨き粉、シャンプー、防寒着や靴下、蚊取り線香、文房具、チューインガムやお菓子といった日用品や嗜好品は、現地の人が使っているのと同じものを使ったほうが、むしろ色々な発見があって楽しさ倍増。 　実際、外国のマーケットって、見ているだけでも本当に面白いですよね。 　いつだったかＡ国のマーケットに行ったら、ごく普通に人間用の蚤とりシャンプーがズラリと並んでいて、思わず「話のタネに」山ほど買ってしまったことがありました（笑）。 　そうかと思えば、Ｂ国で下着を買おうとランジェリーショップに入ったところ、日本ならＤまたはＥカップに相当するであろうブラに「Ａカップ」の表示が付いていて呆然としたことも。 　そのほか実にさまざまな「ビックリ」が、外国のマーケットには溢れているんです。そんな面白い場所を活用しない手はありません。 　……というわけで、今回も出来る限り軽装で出かけ、足りないモノはすべて現地のマーケットで調達を、と目論んでおります。 　ダラムサラ行きに備え、先週はダライ・ラマ法王事務所日本代表のチョペ・ツェリンさんからチベット語のブラッシュアップの特訓を受けてきました。 　チベット語と言えば、数の数え方が日本語とよく似ていることでつとに有名です。 　「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10」をチベット語で言うと、「チ（1）、ニ（2）、スン（3）、シ（4）、ガ（5）、トック（6）、ドゥン（7）、ゲ（8）、グ（9）、チュ（10）」。 　次いで、チューチ（11）、チューニ（12）、チュースン（13）、チューシ（14）、チューガ（15）……と続くのですが、実際に音で聞くと、カタカナで書いたときよりもさらに日本語に似ている感じ。なんとも不思議な一致です。 　そうでなくとも、チベット語は日本語と語順が同じですから、一旦使い慣れてしまえば、日本人には馴染みやすい言葉なのかも知れません。 　折角なので、この機会に心ゆくまで勉強してみたいと思います。 　今回の旅は、まずデリー経由でインドに入り、そのあと陸路でダラムサラへと向かいます。 　ダラムサラはインド・ヒマラヤの麓にある美しい町で、チベット亡命政府の置かれているところ。ダライ・ラマ法王の居城である仏教寺院を中心に、チベット人居住区が広がっています。 　私にとってはこれが3度目のダラムサラですが、今回は法王への単独インタビューという大仕事が待ち受けていますし、編集者さんやカメラマンさんが一緒という意味でも、これまでとは一味も二味も違ったダラムサラ詣でになること間違いありません。 　実は、今回のダラムサラ行きには、もうひとつ特筆すべきことがあります。それは、法王に謁見するときに着る予定のチベットドレスです。 　私には、22年前に70歳で亡くなった大好きだった祖母がいました。 　祖母が亡くなって形見分けをすることになったとき、私は祖母が一番好んで着ていた普段着の着物を譲り受けました。 　その紫色の小紋を見るたび、優しかった祖母との想い出が、今でもひとつひとつ思い出されるのです。 　今回ダライ・ラマ法王に謁見することが決まったとき、私の心に真っ先に浮かんだのは、（祖母の着物も一緒にダラムサラに連れて行ってやりたい）ということでした。 　そのためには、私がその着物を身に付けて行けば話は早いのですが、いかんせんこの着物はあくまでも普段着。礼装としては不適当です。 　そこへ浮かんだのが、この着物をほどいてチベットドレスとして仕立て直すというアイデアでした。 　チベットドレスは、着物に似た襟元のブラウスの上に、直線断ちのジャンパースカート（くるぶしが隠れる丈）を重ねて着ます。このデザインなら、小紋の柄がきっと映えるはず。 　早速、大の仲良しでファッションデザイナーの岡正子さんに相談したところ、京都在住の腕のよい職人さんを紹介していただくことができ（※こういう難しい仕事のできる職人さんの多くは、やはり京都にいらっしゃるのだそうです）、祖母の形見の着物は立派なチベットドレスとして生まれ変わることができました。 　祖母の着物と一緒の旅の様子は、次号「週刊マミ自身」（9月18日更新予定）で詳しくお知らせしますね。写真もたくさん撮ってくる予定ですので、どうぞ楽しみにお待ちください。 　それでは、行って参ります♪ ＜お知らせ＞ 　娘による個展が、東京・赤坂のGallery Bar Heavenにて開催されています（入場無料）。会期は9月5日（日）から11日（土）まで。 　今回の個展では、最近数年間の作品のほか、娘が幼少時に描いた作品の数々（『めまいがするようなきがする』『こんやのキス』など）もご覧いただけます。アートに関心のある方は、ぜひお運びください。 　事事如意 　　　　　2004年 9月6日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年8月28日号(第144号) 死について考える 　【　お　知　ら　せ　】 ●小学館『和樂』10月号（9月6日発売）に、「聖地ラダックで人生を変える旅〜チベット仏教十二年に一度の奇祭を訪ねて」が特集されます。6月末から7月頭にかけて旅した北インドのラダックについて、山田真美が紀行文を書いています。ぜひご高覧ください。 　今日は嬉しいお知らせがあります。11月に出版が予定される「死」がテーマのノンフィクションのゲラ（校正刷り）が印刷所から上がってきました。 　今週の日曜日は、ちょうどお茶の稽古がお休み。というわけでこの週末は書斎に篭り、赤ペン片手にゲラにチェックを入れながら過ごしております。 　本のタイトルは『死との対話』に決定。表紙に使用する写真も決まり、出版に向けての準備は着々と進んでいます。 　どうやら私にとって2004年という年は、「死」について徹底的に考える年になったようです。 　上記のノンフィクション出版のほか、来月はヒマラヤでダライ・ラマ法王に謁見し、「死」に関するインタビューをさせていただく予定ですし、現在制作中のＮＨＫスペシャル番組「カウラの大脱走〜オーストラリア日本兵捕虜・60年目の証言」も、「集団自決」と「自決に失敗し生き残った人々のその後」がテーマですから。 ※ＮＨＫスペシャル「カウラの大脱走」に関する詳細は、「週刊マミ自身」第142号および『生きて虜囚の辱めを受けず』をご参照ください。 　今週はＮＨＫのディレクターと2人で、カウラ事件の生き残りであるＫさんお逢いしてきました。 　Ｋさんとは、これまでにも時々手紙のやり取りはしてきましたが、実際にお目にかかるのは実に9年ぶりです。 　来月で88歳になられるＫさんからは、今回のことに関して再三にわたり、 「自分はすっかり年を取ってしまいました。若い人の足手まといになることはあっても、お役に立てることはひとつもないと思います。誠に残念ですが…」 という、ほとんど取材辞退とも思われる内容のお手紙をいただいており、正直なところ私も内心では、（Ｋさんのテレビ出演はもはや不可能なのでは？）と、かなり心配しておりました。 　ところが実際にお目にかかってみると、そんな心配は全く無用だったようです。 　Ｋさんのピンと伸びた背筋、こちらのどんな質問に対しても理路整然と受け答えをなさる応対ぶりは、88歳のご老人とも思われず、その生命力の逞しさに逆に驚嘆させられました。 　同時に痛感したことは、既に何冊かの本が出版されているカウラ事件でさえ、まだまだ語られていない真実が多いのだという、紛うことなき現実です。 　9年前には聞くことのできなかった幾つかの真実が、Ｋさんの口からポロポロとこぼれ出る現実には、驚きを禁じえませんでした。 　戦争という異常事態がもたらしたであろう、極度の緊張と昂揚。殺さなければ殺される、究極の力の論理。日本の場合はここに加えて、「戦陣訓」に代表される特殊な洗脳教育もありました。 　そうした諸々のプレッシャーの終結から60年。 　元軍人だった人たちは、21世紀の今になってようやく戦争の呪縛から解かれ、これまでひた隠しにしてきた本音を自然に話せるようになってきたのではないでしょうか（これはある意味で、「老い」の効用かも知れませんね）。 　Ｋさんとの会合を終えたとき、私の胸には、次なる大きな目標が見えていました。 　それは、終戦60年にあたる来年、Ｋさんという戦争で死にきれなかった職業軍人を主人公に、カウラ事件とその後の60年間の心の葛藤を、一冊の本（ノンフィクション）にまとめるということです。 　そもそも戦記小説などに全く興味がなかった私が、ひょんなことから9年前に『生きて虜囚の辱めを受けず』を翻訳・出版した不思議。それがきっかけとなって、元捕虜のＫさんと出逢った運命。 　作家として、私がＫさんについて知っていることは全て書き残す必要があるのではないか。「使命」というとキザに聞こえるかも知れませんが、これは天から自分に与えられた仕事ではないかと、そんなふうに感じているのです。 　カウラ事件の特徴のひとつは、戦争捕虜として囚われていた1104人の日本人全員が、心から暴動を希望したのではなく、一部の強硬派に引きずられる形で、穏健派だった人たちまでが結果的には暴動に加担してしまったこと。 　その意味でカウラ暴動は、「付和雷同」「長いものには巻かれろ」「全体主義」といった日本人気質が、最悪の形で表われてしまった事件だと私は思っています。 　そして、こうした日本人気質は戦争から60年経っても少しも改善されないどころか、最近はむしろ悪化しているのではないか、とも。 　過去の日本人が犯した過ちを再び繰り返さないためにも、この一冊はどうしても書き残したいですね。 　…ということで、来年も今年に引き続き、「生と死」について真っ向から考える一年になりそうですよ。 　その前に、まずは来月に予定されるダライ・ラマ法王インタビューにご期待ください。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2004年 8月28日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年8月22日号(第143号) 竹林復活プロジェクト＋29年ぶりの同窓会 （写真つきオリジナルバージョンはここからご覧になれます） 　【　お　知　ら　せ　】 ●小学館『和樂』10月号（9月6日発売）に、「聖地ラダックで人生を変える旅〜チベット仏教十二年に一度の奇祭を訪ねて」が特集されます。6月末から7月頭にかけて旅した北インドのラダックについて、山田真美が紀行文を書いています。ぜひご高覧ください。 　ようやくとれた100％の夏休み（＝仕事が完全にOFFという意味です）。 　今年は仕事でさんざん海外を飛び歩いていますので、夏休みは日本に残ることに決定。 　家族とともに山小屋に籠り、読みたかった本を芝生の上に寝転んで読んだり、花火大会を見物に行ったり、庭にテントを設営して気まぐれに泊まってみたり、夜は温泉三昧をしたりと、自宅に居ながら、まるで旅でもしているような10日間でした。 　ニュースなどで既にご存知の方も多いでしょうが、この夏の長野県はクマの被害がひどく、うちの裏山でも目撃されています。 　私の場合、森の中に入るときは、何年か前に知人からもらったカナダ製のクマよけの鈴を身に付けて、ガランガランと大きな音を立てながら山道を歩くことにしているのですよ。 　クマに遭遇しないためには、大きな音を出して山を歩くことが基本中の基本。「ある日森の中、クマさんに出逢った」なんて事態は、絶対に避けたいですからね。 　さて、前号でも予告しましたが、この夏は山小屋に竹林をよみがえらせる計画、題して竹林復活プロジェクト（Part 1）を開始いたしました。 　なぜ“Part 1”かと言いますと、竹の植樹は春にしかできないから。「植樹」は来年の春に行なうとして、今回はその前段階に当たる「下地づくり」に専念しました。 　うちの山小屋の土蔵の脇は、以前は鬱蒼とした竹林のあったところなんです。けれども、巷間で言われるように、竹は約70年でその寿命を終えてしまうんですね。 　70年といえば、人間の一生とほぼ同じ長さ。同じ時に生まれた人間と竹林が、ほぼ同じ時に一生を終えるのだと考えると、何やら感慨深いものがあります。 　竹林を復活させたいという気持ちは、かれこれ20年ほど前からずっと持ち続けていたんですよ。 　どういうわけか、私は昔から植物の好みがハッキリしていまして、菊は嫌いだけれど藤は好き、松は嫌いだけれど竹は大好きといった具合。 　私が竹を好きな理由は、しなやかな竹林にザァッと風が起こった時の、あの胸騒ぎのような音にたまらなく「そそられる」せい。 　それに、竹林から発する空気からは、一種独特の清浄さというか、どこか霊的な高潔さを感じますし。 　山小屋に篭っている時間は、いつも竹林の空気に触れていたい。そんな気持ちから、今回の竹林復活プロジェクトはスタートしました。 　いつかこのあたりが鬱蒼とした竹林になったら、満月の夜に竹林の前に緋毛氈を敷き、『竹取物語』をテーマに風流なお月見野点を催したいと思っています。 　何年先のことになるかわかりませんが、竹林が大きくなる頃までには、茶人としての私の腕も少しは成長しているんじゃないかな。なんて、ちょっと期待したりして（笑）。 　竹林復活プロジェクトPart 2は、来年の春頃にご報告いたします。どうぞ、気長に続報をお待ちください。 　…そんなこんなで瞬く間に10日間が過ぎ、信州で過ごす夏休み最終日（8月21日）、夏の終わりを飾るにふさわしい一大イベントがありました。中学校の同窓会です。 　卒業から数えて29年ぶりは、ほとんど浦島太郎並み（？）の「おひさ」です。 　それに10クラス（卒業生約420人）合同は、少子化が進んだ現代ではちょっとあり得ない大スケールかも知れません。 　これだけ長いブランクをおいた大規模な同窓会は、かなり珍しい事態らしく、当日はなんとテレビ朝日さんが取材に来ていてビックリ。 　その様子は、9月15日オンエア予定のバラエティー番組の中で全国放送されるらしいのですが、クラスの幹事さんに聞いても、それが何というタイトルの番組で、何時から放送されるのか、全然把握していないというので二度ビックリ（笑）。 　もしも番組の詳細がわかりましたら、追ってお知らせいたしますネ。 　人間というものは、子育てのいちばん忙しい部分が一段落する頃、昔の友達に無性に逢いたくなるものだそうです。 　来年の3月で卒業30年、同級生全員が45歳という節目の年を迎える私たちにとって、「今」という時は、まさに人生の越し方を振り返り、現在自分がいる場所をしっかりと確かめるべき季節なのかも知れません。 　29年のあいだには、420人の同窓生のうち8人が、不慮の事故や病気で既に他界しています。 　「お互いに元気で頑張ろうね！」 　卒業の時には何気なく交わしたこの言葉が、ずっしりと深い意味を持って感じられた29年目の同窓会でした。 　さて、前号でお知らせしたオーストラリア土産には、たくさんのご応募をいただきありがとうございました。 　予想通り（？）白ワインに人気が一点集中してしまい、大変な激戦となってしまいました。厳選なる抽選の結果、当選者は下記の皆さんに決定いたしました。おめでとうございます。 　■白ワイン　：　ＭＡＳＡＢＯＨ様 　■マカデミアナッツチョコレート　：　夏みかん様 　■ブッシュランドティー　：　姉ちゃん様 　■ベジマイト　：　中田淳子様 　なお、次号の「週刊マミ自身」は、従来どおり土曜日（8月28日）の更新を予定いたしております。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2004年 8月22日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年8月11日号(第142号) カウラの大脱走 （写真つきオリジナルバージョンはここからご覧になれます） 　今から60年前の1944年8月5日、午前1時55分、シドニーの西約320キロに位置するカウラ戦争捕虜収容所で、1104人の日本人捕虜が一斉に蜂起、脱走を企てるという事件がありました。 　脱走当時、捕虜たちが手にしていたものは、野球のバット、そのへんで拾った木の棒、それに食事のときに配られたフォークやナイフなど。ほぼ丸腰に等しい、まさしく捨て身の脱走でした。 　自分たちのハット（捕虜の宿舎）にみずから火を放ち、「デテクルテキハ、ミナミナコロセ」の突撃ラッパに続いて総決起した彼らの胸中には、生きてこの地上に残る意思など最初からなかったのです。 　生きるためではなく、死ぬための脱走。―それこそが、カウラ事件という世界でも前例を見ない捕虜脱走事件の底に流れるテーマだったのかも知れません。 　そのカウラの地で、脱走60周年を記念した大きな式典が開かれると知ったのは、去年の暮れのことでした。海軍のご出身で、かつて戦争捕虜としてカウラ収容所におられた高原希國（まれくに）さんが教えてくださったのです。 　高原さんは豪快な性格の関西人で、思ったことはハッキリと口になさいます。このとき、高原さんが私に仰った言葉はこうでした。 「真美さん、言うとくけどなあ、私ら元捕虜も、もうトシやでえ。カウラに行けるのもこれが最後や。だから今回だけは、どんなことしても行かなあかん思うてますのや」 　このときの高原さんの言葉を、私はどうしても忘れることができなくなってしまったのです。 　話は前後しますが、今から9年ほど前、私はカウラ事件を扱ったドキュメンタリー“Voyage from Shame”（ハリー・ゴードン著）を日本語に訳して『生きて虜囚の辱めを受けず』のタイトルで出版したことがあります。高原さんとは、そのとき以来のお付き合いなのです。 　高原さんがいみじくも指摘なさったとおり、カウラで捕虜になっていらっしゃった方々は既にご高齢です。鬼籍に入られた方も少なくありません。 　事件をこのまま風化させてしまいたくない。事件から60年経った今だからこそ語れる真実がきっとあるはずです。オーストラリアで行なわれるという60周年式典の様子も、ぜひ映像に残さなければ。…そう思い、本当に居ても立ってもいられない気持ちでした。 　その気持ちをお話したところ、ありがたいことにＮＨＫのプロデューサーが親身になって話を聞いてくださり、2時間のスペシャル番組『カウラの大脱走〜オーストラリア日本兵捕虜・60年目の証言』を制作してくださる運びとなった次第です（放送は今年12月の予定）。 　私も今回は作家ではなく、制作スタッフの1人として番組づくりをお手伝いしております。 　…というわけで、カウラ60周年記念式典に参加すべく、ＴＶクルーの皆さんと一緒にカウラに行って参りました。 　シドニーからカウラへの所要時間は、普通ならば、8人乗りの小型飛行機で1時間。しかし私たちは大量の撮影機材を運搬するため、小型飛行機では無理。シドニーで小型マイクロバスをチャーターし、一路西へと向かいました。 　南半球は今が真冬です。オーストラリアというと年中暖かい場所を想像されるかも知れませんが、内陸では雪が降り雹がぱらつくほどの冷え込みよう。分厚いコートが必須です。 　世界遺産のブルー・マウンテンを通って、更に内陸に入り、約6時間かかってようやく到着したカウラの町には、冷たい雨が降りしきっていました。 　私たちはまず日本人墓地に出向いて、この墓地に眠る231人の元捕虜のかたがたの墓標にお参りをして来ました。 　カウラに着いたその日から、私たちは朝から晩まで、ほぼ休みなしの超ハードスケジュールで撮影と取材を続けました。 　特にキツかったのは、8月4日から5日にかけてのスケジュールです。 　4日の昼過ぎから始まった公式行事は、ほぼ休みなしで延々と続き、5日の早朝には、なんと深夜の1時55分（実際に脱走が起こった時刻）に脱走現場でサイレンを鳴らし、平和について考えるという行事まであったりして、もう全っ然、寝てる暇なんてありませんでした（苦笑）。 　カウラでの式典がすべて終わり、高原さん達と別れた私たちは、シドニーに場所を移し更なる取材を続けました。 　事件当時を知るオーストラリア人の何人かは、現在ではシドニーにお住まいなのです。 　たとえば、大脱走が起こった当日にカウラ病院に勤務していた看護婦さんからは、当日の貴重なお話を伺うことができました。 　カウラ事件を考えるとき、一種の呪文のように繰り返される言葉に「生きて虜囚の辱めを受けず」というものがあります。 　これは、Ａ級戦犯として戦後絞首刑にされた陸軍大将・東条英機が唱えた「戦陣訓」の一説で、その意味するところは、捕虜になることはこの上もない恥辱だから、敵につかまるぐらいなら自決しろという、大変厳しいものです。 　戦後世代には到底理解できないムチャクチャな教えですが、戦時教育を受けた日本軍人にとって、この言葉の持つ神通力と拘束力は、ほとんどカルト宗教と言っても良いほど強固なものだったようです。 　カウラ収容所の日本人捕虜たちは、三度三度の美味しい食事を与えられ、強制労働が課せられることもなく、それどころか学芸会や相撲大会、野球の試合などリクレーションの時間さえふんだんに与えられていました。 　病気になれば即刻治療してもらえるという待遇を与えられていながら、捕虜という身分から脱走したい一心から、彼らは大脱走を実行したのです。 　暴動の結果は、日本側の死者231人、負傷者108人、成功者ゼロ。オーストラリア側の死者4人。 　史上最大の捕虜脱走事件は、オーストラリアと日本の両国政府によって長く隠蔽され続け、事件が公式に語られるようになったのは、事件から40年も経った1984年のことでした。 　そしてこの事件の裏側には、日本人のメンタリティーを考える上で最も本質的な何かが潜んでいるように思えてならないのです。 　戦争モノに興味のない方も、この番組だけは、是非ともご覧ください。放送日などは決まり次第お知らせいたします。 　さてさて、お約束の読者プレゼントですが、今回はオーストラリア・ワインなどをご用意いたしました（上の写真をご参照ください）。プレゼントをご希望の方は、 　�@希望の品名 　�Aお名前（本名） 　�Bご住所と電話番号 　�Cハンドルネーム（当HP上で公開しても構わないもの） 　�D山田真美へのメッセージ を明記の上、boosuke@badboy.co.jp までメールでご応募ください。 　締め切りは8月21日、発表は次号の「週刊マミ自身」（8月22日更新予定）です。たくさんのご応募、お待ちしています。 　私は明日から暫く山ごもり。山小屋の横の竹林復活プロジェクトに挑みます。次号では、その詳しいご報告をいたしますので、どうぞお楽しみに！ 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2004年 8月11日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年8月1日号(第141号) 隅田川花火大会 （写真つきオリジナルバージョンはここからご覧になれます） 　執筆のため、9日間ほど奥信濃の書斎に缶詰になっておりました。 　昼間は休む間もなくただひたすら原稿に向かっていたのですが、そのあとのお楽しみは、なんてったって温泉タイム♪　9日の間に、源泉がまったく異なる3ケ所の温泉に行き、合計8時間も湯船に浸かりまくって来ました。 　日本人なら多かれ少なかれ誰でも温泉好きだと思いますが、私も温泉めぐりにかけては人後に落ちませんよ〜（笑）。特に好きなのは、滅多に人が来ないような山の出湯っぽいところですね。 　去年の夏頃から私が通い詰めている「○△□の湯」も、そんな温泉のひとつ。全くコマーシャルをしないため、お客さんは村の住民ばかり。その、ちょっと寂れた感じが、たまらなく郷愁を誘うのですよ、これが。 　内風呂には入らず、私はもっぱら露天風呂を愛用しています。 　さて、束の間の山の暮らしを終えて東京に戻ってみれば、既に世の中は夏休みモードに突入済み。しかも翌日は隅田川花火大会。 　できればもう少しゆっくり夏を楽しみたいところですが、時間がどんどん勝手に先へ進んで、気がつけば一気に夏本番になってしまったようです。 　拙宅は浅草に程近い場所にありまして、当然、隅田川は歩いて行ける距離。私の書斎がある10階の窓からは、左右に2ケ所ある花火の打ち上げ場所を2ケ所とも展望できるのです。 　例年ならビール片手に屋上で花火見物と洒落こむところですが、今年は少しばかり風邪気味だったこともあって、屋上には上がらず、珍しく書斎から静かに夏の風物詩を楽しみました。 　…というわけで、昨日は久々に江戸情緒をたっぷり堪能いたしました。 　その余韻も覚めやらぬまま、明日からの8日間は、ＮＨＫハイビジョン番組「カウラの大脱走〜オーストラリア日本兵捕虜・60年目の証言」制作のためロケ隊と共にオーストラリアへ行って参ります。 　今回の渡豪目的は、カウラ大脱走60周年の記念式典に参加し、関係者（元脱走兵、元オーストラリア軍関係者、地元の人々、事件を追い続けたジャーナリストetc.）の“現在の”心境をインタビューするというものです。 　1104人の日本人捕虜による収容所からの脱走は、言うまでもなく捕虜脱走事件としては世界最大規模のもの（しかも、この事件における脱走成功者はゼロ）。番組では、「そのように無謀な脱走を“なぜ”しなければならなかったのか」、60年後の今だからこそ語れる歴史の真実に迫りたいと思います。 　12月のオンエアに何卒ご期待ください。 　それにしても、この夏の私ときたら神出鬼没というか何というか…。 　なにしろたった1ヶ月半の間に、猛暑の東京→朝晩の温度差が30度もあるヒマラヤ→猛暑の東京→ひんやり涼しい奥信濃→猛暑の東京→真冬のオーストラリア…といった具合に、過激なまでに暑→寒→暑→寒→暑→寒を繰り返してますからね（笑）。 　このローテーションは、9月のヒマラヤ行き（ダライ・ラマ法王との単独会見）までずっと続くことになりそうです 　次号の「週刊マミ自身」は8月11日（水曜日）更新予定、テーマは「カウラの大脱走」です。オーストラリアからの読者プレゼントも計画していますので、再び乞うご期待。 　暑い日が続きます。新鮮な野菜をたくさん食べて、水分と睡眠を十分にとって、この猛暑を乗りきりましょう。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2004年 8月1日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年7月24日号(第140号) 山小屋便り 　【　お　知　ら　せ　】 ●現在発売中の『和樂』8月号「直島地中美術館」特集に、現代アートの巨匠ジェームズ・タレル氏と山田真美の対談が掲載されています。何卒ご高覧ください。 　暑い暑いとぼやいているうちに、気がつけば7月も残すところたったの1週間？ 　この夏は、何の因果か怒涛の如く次々に仕事が押し寄せ、明らかに去年を上回る忙しさです。 　8月上旬には、ＮＨＫハイビジョン番組「カウラの大脱走〜オーストラリア日本兵捕虜・60年目の証言」の制作のためオーストラリアに行くことが急遽決まり、それまでに締め切り原稿を書き上げるために、数日前から山小屋で缶詰になっています。 　こちらは、東京の暑さが嘘のよう。昨夜などはかなり冷え込んで、毛布の上にさらに冬用の布団が必要なほどでした。 　このまま、あと1週間ほど山に籠もって執筆に専念する予定ですが、その間隙を縫うようにして、草刈り、井戸さらい、雪上車の修理などなど、片付けなくてはならない仕事は山積み。 　あ、8月中旬には、山小屋の横の竹林を復活させるという大プロジェクトも待っているんですよ♪　このプロジェクトには、ガーデニングの専門家も参加してくださるので、かなり本格的なことになるのではないかと。その様子は、また写真付きでお知らせしますので。 　…そんなわけで、忙しくて忙しくて、1日が100時間ぐらい欲しい今日この頃です。 　さて、前回お知らせしましたラダック土産の当選者は、厳正なる抽選の結果、次の3名様に決定しました。 　　★ポシェットとお香のセット　レイコ様 　　★サンダルウッドの数珠　中田淳子様 　　★ボードゲームと神話劇画のセット　福岡の町医者様 　今回はサンダルウッドの数珠に人気が一点集中してしまい、たいへんな激戦となってしまいました。 　当選者の皆様、おめでとうございます。残念ながらハズレてしまった方、ごめんなさい。これに懲りず、次回の読者プレゼントにもぜひ挑戦してくださいね。 　なお、賞品の発送は今月末を予定いたしております。到着まで、今暫くお待ちください。 　「週刊マミ自身」の次回更新は8月1日（日）、内容は「隅田川花火大会」を予定しています。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2004年 7月24日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年7月10日号(第139号) この世の果て （写真つきオリジナルバージョンはここからご覧になれます） 　【　お　知　ら　せ　】 ●ヒマラヤ取材から戻り一息ついたのも束の間。ＮＨＫのハイビジョン特集「カウラの大脱走〜オーストラリア日本兵捕虜・60年目の証言」（12月放送予定、110分番組）の制作に携わることが決まり、更に忙しい日々を過ごしております。そのため暫く「週刊マミ自身」の更新が不定期的になる可能性がありますが、何卒お許しください（次回更新は7月24日を予定しております）。 ●現在発売中の『和樂』8月号「直島地中美術館」特集に、現代アートの巨匠ジェームズ・タレル氏と山田真美の対談が掲載されています。何卒ご高覧ください。 　インドの北の果て、ヒマラヤの遥かなる稜線があの世とこの世を分かつあたりに、かつてヒマラヤの五大王国の一つとして栄えた仏教の都、ラダックがあります。 　西洋の人々がMOON LAND（月世界）と呼び、インドの人々もTHE LAND BEYOND（向こう側の世界）と呼ぶこの一帯は、まさにこの世の果てとも言うべき秘境。 　そのラダックを代表するヘミス・ゴンパ（※ゴンパ＝仏教寺院のこと）で6月27日〜28日にかけて行なわれた申（さる）年の大祭を取材して参りました。 　今回の取材クルーは、『和樂』編集部の高木史郎さん、カメラマンの小西泰夫さん、それにカメラマン助手の伊藤さん。 　私にとっては3度目、他の3人にとっては初めてのラダックです（小西さん以外の2人は今回がインド初体験）。なかなかエキサイティングな道中となりました。 　詳細なエッセイは『和樂』10月号（9月6日発売予定）の特集でお読みいただけますが、今日のところは、私がデジカメで撮影したラダックの撮れたてレポートをお楽しみください。 　かつてラダック王国だったこの場所は、現在はインド共和国ジャンムー＆カシミール州に属しています。 　平均標高3500メートル。酸素が薄いことは言うまでもありませんが、年間降雨量がわずか80〜90ミリ程度と極度に少ないため、空気の乾燥がひどく、ちょっと油断しただけで肌（特に唇や鼻腔）がカサカサに乾いてヒビ割れてしまうような苛酷な環境です。 　私はモイスチャライザーを常に携行して、暇さえあれば全身に降りかけていましたが、それでも目の周囲などが乾燥し、夜中にヒリヒリ痛んで目が醒めてしまったほど。 　日ごろ海抜数十メートル程度の低地（東京）で安穏と暮らしている私たちにとって、ラダックは、そこに存在すること自体が重労働と言いますか、ある意味、生きてゆくだけでも大変な住環境なんですね。 　そんな過酷な環境の中に美しい仏教美術が花開いたこと自体、何かたいへん暗示的な気がしませんか？ 　さて、今回の取材の目玉である、ヘミス・ゴンパで12年に1度だけ行なわれるヘミス大祭は、今回は6月28日〜29日の開催となりました。 　お祭り前日の27日にロケハンに行ってみたところ、（予期していたことではありますが）多くの善男善女が早くも場所取りを始めていました。聞けば遠くの村々から、長距離バスを乗り継ぎ、あるいはヒッチハイクで来たのだそう。お祭りを前にして、みんな本当に嬉しそうな顔をしています。 　ヘミスの大祭を取材した翌日からは、近隣にある他のゴンパ（仏教寺院）を片端から見て歩きました。 　このあたりの多くのゴンパは2階建てになっており、室内に吹き抜け部分があります。そこに大きな仏像が安置されていて、1階部分からは仏像の足が、2階部分からは仏像のお顔が間近に拝めるわけです。 　今回、ラダックの主だったゴンパの仏像をすべて見て回った私たちですが、私が最も心を奪われた仏像は、バスゴーという古い都で逢った弥勒菩薩でした。 　弥勒菩薩とは、ご存知のように釈迦の入滅後56億7000万年後にこの世に現われるとされる菩薩のこと。 　この天文学的な数字を導き出した古代宗教観のスケールの大きさ！　さすがにゼロを発見したインド人だけのことはあります。 　ところで、ラダックと言えば拙著『夜明けの晩に』の中で、主人公の満奈たちが取材に出かけた先。ショッピングの合間に、満奈ゆかりの地（？）にも足を伸ばしてきました。 　…というわけで、ラダック取材は無事終了。 　『和樂』10月号にはかなり詳細なエッセイを載せますので、何卒そちらをお楽しみにお待ちくださいマセ♪ 　プレゼントご希望の方は、 （1）希望の品番号 （2）お名前（ご本名） （3）郵便番号、ご住所、お電話番号 （4）ハンドルネーム（当選者のお名前として当HP上で発表してもかまわない名前） （5）「週刊マミ自身」へのご意見や、今後取り上げて欲しいトピックス、山田真美へのメッセージなど 　※（2）と（3）はそのまま賞品発送先となります。マンション／アパートの方は部屋番号までご記入ください。 　以上の事柄をご記入の上、メールにて boosuke@badboy.co.jp までご応募ください。 　締め切りは7月23日、当選者発表は「週刊マミ自身」第140号（7月24日更新予定）です。たくさんのご応募、お待ちしていま〜す。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2004年 7月10日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年6月19日号(第138号) インダス河の水 　【　お　知　ら　せ　】 ●ヒマラヤ取材のため、「週刊マミ自身」の更新は暫くお休みさせていただきます。次回更新は7月10日（土）を予定しています。読者プレゼント（チベット風の民芸品など）をお見逃しなく♪ ●『和樂』8月号（7月6日発売予定）の「直島地中美術館」特集に、現代アートの巨匠ジェームズ・タレル氏と山田真美の対談が掲載されます。何卒ご高覧ください。 　…というわけで、3年3ヶ月ぶりにヒマラヤへ出かけて来ます。 　今回の目的地ラダック地方は、いちばん大きな町であるレー（Leh）が標高3800メートル程度。富士山よりは高いけれど、ヒマラヤ全体の中では「丘」のような感じですね。 　ラダックの概要を簡単にご説明しますと、行政区分としてはインド共和国ジャンムー＆カシミール州の東側に位置し、チベットと隣接しています（と言うか、かつてはラダックもチベットの一部でした）。 　民族的には住民の多くが日本人によく似たモンゴロイド系。宗教的にはチベット仏教が主流で、平和でのんびりした土地柄です。 　「山田真美の世界」的には、『夜明けの晩に』（下巻）の中で満奈と鳥居さんが雑誌の取材で出かけた先、と言ったほうがよろしいでしょうか。 　ラダックにはヘミス・ゴンパという名のチベット仏教の名刹がありまして、そこでは毎年この時期に大きなお祭りが行なわれているのです。ちなみに「ゴンパ」とは仏教寺院のことです。 　私はこれまでに2度、このお祭りを見るためにラダックに出かけているのですが、とりわけ申年には12年に1度の大祭が執り行なわれるのですね。 　日頃から「世界でいちばん好きな場所はヒマラヤ！」と公言している私としては、申年（つまり今年です）のお祭りはまさに必見。 　この話を小学館『和樂』の蔵編集長にお話したところ、「それは面白そうだから、是非ともうちの誌面で特集を組ませてください」というありがたいお返事を頂きました。 　そんな経緯がありまして、今回は『和樂』編集部の高木さんをはじめ、カメラマンさん、助手さんとご一緒のヒマラヤ道中となります。 　ちなみに3800メートルという標高は、かなりの確率で高山病を発症する危険性がある高度ですが、今回の同行者は、大学の山岳部出身など山に慣れているかたばかりなので、まずは安心。いざという時のための特効薬も用心のために持って行きますしね。 　私自身は6180メートルまで登っても高山病にならないことが過去の実績で証明されていますので、3800メートルはノー・プロブレムでしょう（笑）。 　ラダックでは、お祭り取材のほか、マハラジャに逢うことも楽しみのひとつです。 　マハラジャはジグメット・ワンチュック・ナムギャルさんとおっしゃって、私にとっては10年来の友達。たいへん気さくな人柄で、仲間内では「ジギー」と呼ばせていただいています。 　そう言えば、以前マハラジャのお城に泊めて頂いたときに、真夜中に星を見ようと屋上に出たところ、廊下で迷子になってしまい、自分の部屋に帰ることが出来ずヒドイ目に遭いました。 　なにしろお城は全部で77部屋。しかも、廊下の左右にズラリと並んだお部屋は、どれもこれもほとんど同じに見えるんです。寒気の中、歯をガチガチ鳴らしながら部屋を探し回ったあの時は、すんでのところでお城で遭難するのかと思いましたよ。 　今回はそういうことのないように、『ヘンゼルとグレーテル』のように目印の小石を落としながら行くか、『アリババと四十人の盗賊』のようにドアに×印を付けてから屋上に昇らなくてはと思っています、ハイ（笑）。 　さて今回は、是非ともラダックから日本に持ち帰りたいものがあります。 　それはズバリ、ヒマラヤの氷河から溶け出したばかりの清冽なインダス河の水。この水を4リットルほどペットボトルに入れて持ち帰り、次のお茶会に使おうと目論んでいる私なのでありました。 　茶道の師匠である荒井先生も、この話にはたいへん乗り気で、 「あら素敵。それでは、インダス茶会のために、特別な茶碗を用意しておきましょうね。インドらしく、蓮の花が描かれた茶碗なんて如何かしら」 とのお返事でした。 　ちなみにお茶の世界では、天下の名水とされるお水を使ってお茶を点てることがあり、そうした場合には、水指（みずさし）の前に小さな茅の輪を置くのですって。 　そうすることで、「このお茶には特別な水が使われていますよ」という暗黙の表示になるのだそうです。 　この話を編集者の芝田暁さんにしたところ、 「いいですねえ！　私もインダス河の水で珈琲が飲んでみたいな。出来たら、コップ1杯分ほどの水を分けて頂けませんか」 という反応が返ってきました。 　このほかにも、「僕も」「私も」と水希望者が後をたたず、今回のメインのお土産は「インダス河の水」ということになりそうです（笑）。 　「週刊マミ自身」読者の皆さんには、チベット風の小物入れとか帽子など、ヒマラヤっぽいお土産を探して来る予定ですので、どうぞお楽しみに。風景写真もたくさん撮ってこようと思います。 　それでは、3週間後にお目にかかりましょう♪ 　 　事事如意 　　　　　2004年 6月19日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年6月12日号(第137号) 娘の卒業 （写真つきオリジナルバージョンはここからご覧になれます） 　娘が、昨日、無事にハイスクールを卒業いたしました。 　「え、こんな時期に卒業なの？」と思われた方もいらっしゃるでしょうが、インターナショナル・スクールでは、イギリスやアメリカ、カナダなどと同様に「入学は8月下旬から9月上旬、卒業は6月」が基本なのです。 　この時期、日本は梅雨ですが、イギリスで6月と言えば薔薇の咲き乱れる青空の季節。ジューン・ブライドに代表されるように、1年でいちばん美しいシーズンなんですね。 　インターナショナル・スクールの卒業式が日本の学校の卒業式と大きく異なる点は、家族はもとより、親戚、仲の良い友達、（いる人は）ボーイフレンドやガールフレンドなどなど、大勢の知人を卒業式に招待する習慣。 　それからあの、映画に出てくるような長いガウンと四角い帽子をかぶることも特徴です。 　来賓や学長の祝辞は、ジョークやユーモアをまじえたものが多く、堅苦しさはありませんね（と言うか、人を笑わすことのできないスピーチは、基本的にＮＧという不文律があるようです）。 　そんなこんなで、インターの卒業式は、「式」と言うよりむしろセレモニーとしての要素を含んだショーという感じなのです。 　当日、関東地方は土砂降りの大雨でしたが、その雨の中を、家族と娘の友達みんなで連れ立って出席してきました。 　それにしても、一言で「卒業」と言いますけれど、振り返ってみると、娘が小学校に入学してからハイスクールを卒業するまでの12年間には、実に色々なことがありました。 　娘が小学校に入るまで、私たち一家は信州の山の中の一軒家での〜んびり暮らしていたのです。 　しかし、彼女が某国立大学の附属小学校に入学したことで、ライフ・スタイルが変わりました。つまり、学校のすぐ近くに家を借り、月曜日から金曜日までは学校前の家で暮らし、週末だけ山の家に帰るというパターンになったのです。 　続いて娘が4年生を終える頃には、一家でインド暮らしをすることが決まりました。娘より6つ年下の息子も連れて、家族全員でニューデリーへ…。 　娘はここでインド最大のインターナショナル・スクールに編入、そこで6年間を過ごすことになります。つまり彼女は、それまでの日本語による教育から、一気に英語のみの教育へと劇的な変化を体験したわけです。 　それまでも、ある程度の英会話は家で教えていました。 　家には外国からのお客様も多く訪れていましたし、海外旅行にも慣れていた娘でしたが、学校ではネイティブの子ども達と対等に英語を使わなければならないのです。 　微分積分みたいな勉強も、全〜部英語だけでやるのです。そのプレッシャーは、想像を絶するほど大変なものだったでしょう。 　しかもその学校というのが（入学してから知ったのですが）、世界中のすべてのアメリカン・スクールの中で常に1〜2番の学業成績を誇る学校だったものですから、なおのこと大変でした。 　宿題の量も半端でなく、娘の中学時代の平均睡眠はせいぜい4〜5時間だったのではないかと思います。 　でも、頑張った甲斐あって、中学卒業時の娘は成績優秀生として、ホワイト・ハウスからクリントン大統領名で表彰されました。インドのインターナショナル・スクールでの6年間が、彼女の眠っていた個性を大いに引き出してくれたのです。 　2001年に家族とともに日本に帰国したあとは、昨日卒業したインターナショナル・スクールに転校。ここで彼女は、またしても大きな変化を経験することとなりました。 　それまでインドで通っていた学校が完全なアメリカ式教育だったのに対し、今度の学校の基本は英国式教育。カリキュラムや教え方、そしてなによりも校風が、再び激変してしまったのですから…。 　12年という月日の間に（しかも多感な少女期に）、いくつもの山と谷をよくぞ越えてくれたと思います。 　娘はもともと絵を描くことが大好きで、絵筆と紙さえ渡しておけば静かに何時間でも絵を描いているような子でしたが、日本に戻ってからは水を得た魚のように数多くのアート・イベントに参加。複数の公募展に入選し、個展を開き、アートの世界に没頭して行ったように思います。 　そうこうしているうちに、ついに昨日でハイスクール卒業。このあとは親元を離れて、某国某大学の美術学部に進学予定です。 　もとより子育てに「終わり」なんてないと思いますが、とは言え娘のハイスクール卒業は、ひとつの大きな節目となりました。 　これまで娘の力になってくださった皆様、本当にありがとうございました。そして、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。 　12年間よく頑張ったね。卒業おめでとう！ 　今日は珍しくしみじみと、12年間の回想に耽りたい気分の私なのでありました。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2004年 6月12日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年6月5日号(第136号) 英語でお茶会 　表千家不白流の荒井宗羅先生のもと、去年からお茶の世界にどっぷり浸っている私ですが、今週はたいへん面白いお茶会を経験させていただきました。 　題して、赤坂溜池タワー・ペントハウス夜咄茶会。赤坂の超近代的な高層ビルの最上階で、150人〜200人の外人さんに野点を楽しんでいただくというユニークな企画です。 　先生からのお達しは、「当日の舞台は近代的なビルで、お客様は外国の方々ですから、少し派手めのお着物のほうが映えますよ」。 　今回のお茶会のテーマは「葡萄づくし」とのことなので、いろいろ考えた末に、着物も葡萄色を選んでみました。 　帯は名古屋。手提げ鞄だけは、わざとハズして洋風バスケット。何人かのかたから「そのお着物、宇野千代さんのデザインですか？」と聞かれましたが、残念ながら違います（笑） 　余談ながら、この着物は私が生まれて初めて呉服屋さんに行き、自分で反物から選んだ想い出の一枚なんですよ。 　花の部分はすべて手描き。かなり高価な買い物でしたが、何年経っても本物は風合いが衰えないと言いますか、飽きがこないと言いますか、やはり「いいものはいい」ですね。これぞ日本文化の極み、という感じ。 　さてさて、今回のお茶会の会場となった赤坂溜池タワーは、赤坂にある高級マンションです。 　この超近代的な建物の最上階（ペントハウス）に、竹を活けたり、緋毛氈を敷いたり、水屋を設営するなどして、あたかも鄙びた山里で野点（のだて）を楽しむがごときスペースを作ってみました。 　150人〜200人ほどいらっしゃったお客様は、全員が日本語のわからない外国人。もちろん、お茶も初めてというかたばかりです。 　というわけで、今回のお茶会の使用言語は英語のみ。ある意味、究極の和洋折衷ティー・セレモニーとなりました。 　お客様はまず待合に通され、美味しいイタリアン・ワインを振舞われました。普通のお茶会では、待合で飲み物を振舞うことはしないのですが、なにしろ今回はテーマが「葡萄」ですので、まあ無礼講ということで（笑）。 　皆さんがほろ酔い加減になった頃合を見計らって、私のほうから今日のテーマや決まりごとについてご説明。 　そのあと、手燭（てしょく）を持った正客が先頭に立って、露地に見立てた細長い廊下をしずしずと歩いてお茶席へ移動。 　廊下は片側が全面ガラス貼りなので、窓からは東京の夜景と満月が一望できます。そこを、ゆらゆら揺らめく和蝋燭の灯を頼りに歩くのは、なかなか幻想的なもの。 　露地の先には、野点風のお茶席が用意されています。高層マンションの内部とは思えない和風の趣に、お客様からは思わず“Oh…!”という溜息が漏れました。 　お客様には、緋毛氈を敷いたお席に座っていただき、実際にお茶を召し上がっていただきながら、細かなやり方をその都度ご説明するのですが、日本文化にはすぐには理解してもらえないことが多かったですね。 　「茶碗の正面を避けるために、陰の方向に右手で茶碗をまわしてください」とご説明したところ、 「どうして茶碗の正面が大事なの？」 という質問が即座に返ってきました。茶碗の正面（いちばん大事な部分）に口をつけることを避けるという日本的美学は、どうにも理解しがたい様子です。 　1日に4杯も5杯も薄〜いアメリカンコーヒーをがぶ飲みするマグカップが「ケ」（褻＝日常のこと）なら、茶道で使われる茶碗は「ハレ」（晴＝非日常のこと）。 　この、「ケ」と「ハレ」の両者を使い分けるメリハリ感こそが日本文化の醍醐味だと思うのですが、これをわかってもらうのは意外に難しいことのようです。 　このほかにも、亭主に質問することが許されるのは正客だけで、正客以外の人が亭主に聞きたいことがある場合は、まず正客に質問し、正客から亭主に質問してもらうといった決まり事は、外人さんにとってはひどく間怠っこいルールだったことでしょう。 　美味しくても美味しくなくても、とにか「たいへん結構なお服加減でございます」と言わなければならないというのも、かなり日本的な礼儀作法というか、言ってみれば単なるお世辞ですよね。 　本当は（げっ、苦い！）（お砂糖を入れちゃいけないの？）と言いたげな人もたくさんいらっしゃいましたが（笑）、皆さん神妙な顔で、教えられたとおりに、 「タイヘン　ケッコウナ　オフク　カゲン　デ　ゴザイマ〜ス」 とおっしゃっていました。 　こうして見ると、お茶席の決まりごとの中には、日本ならではの摩訶不思議なものが少なくありませんよね。すべての作法が婉曲的かつ儀式的ですし。 　今回は、外国のかたに英語で茶道の説明をすることによって、これまで自分でも気づかなかった日本文化の特異性に改めて気づかされる場面も多く、私自身にとってもたいへん良い勉強になりました。 　また今回のお茶会では、普段はお見せしない水屋（茶の湯の準備をする場所のこと）を公開したり、浅草の和菓子の老舗からご主人をお呼びしてその場で創作和菓子を作っていただいたり、希望者全員に薄茶の立て方を指導したりと、まるでショーのような楽しい会になりました。 　私としては、今回のお茶会を機会に、ますますお茶の世界にのめり込みそうな予感がしています。 　どんな世界でもそうでしょうが、急に何かが見えてくる瞬間ってありますよね。私の場合は今回の茶会が、まさしくその「茶道が見えてきた瞬間」に当たるような気がするのです。 　ちょっと気が早いのですが、いずれは自分の茶室も欲しいですし♪ 　（こんな茶室が欲しいな）という青写真は、実は既に出来ているのです。それはガンダーラとシャンバラを足して2で割ったようなイメージの、ちょっと変わった茶室なのですが…。 　その夢を実現するためには、まだまだ日々精進しなくてはいけません。 　茶室を持てるまでに果たしてあと何年かかるのか見当もつきませんが、あまり期待しないで待っていてください。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2004年 6月5日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年5月29日号(第135号) どこかでお目にかかりませんでしたか？ 　自慢にも何にもならないのですが、私は人の顔を忘れてしまう天才です。 　バーのホステスさんの中には、10年前に1度だけ来店した客のフルネームと会社名をパッと思い出せる人もいらっしゃるそうですが…私にはとても信じられません。 　もっとも、あまり細かく覚えていられるのも、それはそれで怖いものですけどね。 　あるとき、新聞社の人に連れられてカウンター席が8席ぐらいしかない小さなバーに行ったときのこと、ドアを開けて中に入るなり、カウンターの中のママさんからいきなり、 「あら〜、山田真美さんでしょう？　8年前にも一度お越しになりましたよね。あの時は紫色のパンツスーツをお召しになって、バーボンのダブルをストレートで3杯お飲みになりましたよね〜」 と親しげに言われた時は、正直言って、ちょっと気味が悪かったです（なにしろ私は、この店に来るのは初めてだと信じ込んでいたものですから、はい…）。 　出逢ったすべての人の顔を忘れないようにしたいのは山々ですが、どうも私の頭の回路は、そのとき興味を持って真剣に取り組んでいることしか覚えないという我儘な構造になっているらしいのです。　 　前にも逢ったことのある（らしい）相手に「はじめまして」と名刺を渡してしまい、「貴女の名刺、もう持ってますよ」と本気でイヤ〜な顔をされたこともありました（汗）。 　そういえば、ハイパーメディアクリエーターとして活躍中の高城剛さんも、自称「人の顔を忘れる天才」なのだとか。 　そのことを聞いていたので、先日とあるパーティーで隣の席になったとき、「こんにちは。私、ヤマダと申します♪」とご挨拶したところ、 「いくらなんでも、ボクはそこまで忘れっぽくありませんよ山田真美さん」 と言われてしまいました（再び汗）。 　そんなこんなで、ほうぼうで失態を繰り返している私なのですが、先日も、人の顔を覚えられないことが原因でバカなことをしてしまいました。 　それは友人に連れられて行ったお寿司屋さん。 　カウンター席で食事をし、もうそろそろ帰ろうかとお茶を飲んでいたところへ、友人の携帯に電話がかかってきました。「ちょっと失礼」と席を立った友人。 　友人がいなくなって、ひとつ空いた席の向こう側に、新しく入ってきたお客さんが座りました。年の頃なら60代。髪をきれいに剃って、見るからに上等そうなジャケットを羽織った男性です。 　パッと見た瞬間、どこかで見たことのある顔だと思いました。 （えーと、誰だったかしら。仕事関係？　趣味関係？　それともご近所のお坊さん？） 　なにしろ、うちの近所はお寺が多いのです。剃刀をあてて綺麗に手入れしたツルツル頭は、どう見てもお坊さん。どちらのご住職だったかと思い出そうとするのですが、例によって思い出せません。 　でもそのお顔には、絶対に、間違いなく、見覚えがあるんです。 　先方のほうでは私に気がついていないようですが、だからと言ってここでご挨拶をしなかったら、あとあと失礼に当たるでしょう。 　どうしようかなぁと1分ほど躊躇した後、思いきって話しかけてみることにしました。 「こんばんは」 　声をかけられた相手は、ちょっと驚いたようにこちらを向き、「こんばんは」と丁寧にお答えになりました。 　落ちついた佇まいと、いかにも教養ありげな瞳の色。やはり、絶対にどこかで見たことのあるお顔です。しかし、誰だったかは依然として思い出せません。 　自分から話しかけておいて、「あなたは誰ですか」と聞くなんていかにも間が抜けていますが、とは言え聞くは一時の恥、聞かぬは末代の恥。ここはひとつ、わからないものはわからないと正直に言ってしまったほうが後味が良さそうです。 　そう考え、思いきって尋ねてみました。 「あの〜、たいへん失礼ですが、どこかでお目にかかりませんでしたか？」 　なんだか陳腐な口説き文句みたいなフレーズですが、さりとてほかに尋ね様もなかったので、私はこんなアホな台詞を口にしていました。 　それを聞くと、相手の紳士はちょっと困惑したような表情を顔に浮かべて、 「…あっ、そうですか…。いや、そうかも知れません…。それはどうも、お世話になっております…」 みたいなことを、丁寧な口調で仰います。どうも、相手のほうでも私が誰だかわからなくて、返事に困っているらしいのです。 　ふたりの間に沈黙の時が流れました。しかし、こちらから話しかけた手前、このまま話を打ち切るわけにも行きません。相手のお名前を聞き出すために、私のほうから先に名乗ることにしました。 「私は、○○町に住んでおります山田と申しますが…」 　すると紳士はあくまでも礼儀正しく、 「私は△△（屋号らしきもの）の□□と申します。よろしくお願いいたします」 と仰いました。 　しかしそれを聞いても、私には相手が誰なのかさっぱり思い出せません（本当に困ったものです）。 　そこへ、電話を終えた友人が帰ってきました。 　友人は、隣の席の男性をチラッと見ただけで、「さあさあ、お勘定して帰りますよ」と言ったきり、先に立ってスタスタとレジのほうへ歩いて行ってしまいました。 　別れ際に、私が隣の席に向かって会釈をすると、□□さんはわざわざ席から立ち上がり、きちんと腰を折って深々と頭を下げてくださいました。 　レジで支払いを済ませ、店を出たところで、私は友人に言いました。 「今、私のお隣にいた方、どこかで見たことがあるんですけど、どうしても思い出せないんですよね。名前を聞いてもまだ思い出せなくて。喉から出かかっているんですけど…。こういうのって気になりますよね」 　すると友人は呆れたように言いました。 「見覚えがあるも何も、今の人は△△組の□□さんでしょう。有名な大親分じゃないですか。テレビか週刊誌か何かで見たんじゃありません？」 　友人の言葉に「え゛え゛〜っ！？」と驚きながら、目からウロコ。 　それじゃあ、今のジェントルマンはジャパニーズ・マフィアのボスですか？　なるほど、それで頭がツルツルだったのね？　近所のお寺のお坊さんってわけじゃなかったのね？　 　どうやら私は□□さんのお顔を、週刊誌か何かで見てうろ覚えしていたらしいのです。 　ああ、これだから、人様のお顔はしっかり覚えておかなくちゃいけません。 　って言うか、せめてマフィアとお坊さんの違いぐらいはわかるように修行したいと思います。合掌。 ●お知らせ● 　日本画家の山田真巳（my husbandです）を紹介するコーナーが、オール・アバウト・ジャパンのサイト内に誕生しました。今後半年ほどにわたって毎週新しい記事をアップしてゆくようですので、アートにご興味のある方は何卒ご高覧ください。下記URLで日本画のページに行けますので、そこから「新連載―風を食べて飛び続ける鳥」をクリックして頂けますと、該当記事をご覧いただけます。 　http://allabout.co.jp/entertainment/japanesepaint/ 　事事如意 　　　　　2004年 5月29日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年5月23日号(第134号) そしてヒマラヤへ… 　日一日と梅雨めいてきましてネ。 　暑い日が続いたかと思えば急に寒さがぶり返し、不安定な空模様が続きますが、皆さんお元気でお過ごしでしょうか。 　5月11日から仲間入りした犬のパンダはさっそく風邪をひき、病院に連れて行きましたが、「単なる喉風邪」ということで飲み薬をいただき、大事には至りませんでした。 　パンダはいまだにブースケの持ち物を略奪しまくり、ブースケに噛み付きまくって、彼が抱いていた新婚生活への甘い夢を無残にも打ち砕いております。 　私がブースケを抱っこすると、矢のような勢いで走ってきてブースケを力ずくで引きずり下ろし、自分が抱っこしてもらおうとして胸のあたりによじ登ってきたり、とにかくかなり強引（汗）。 　まあ、パンダ本人はじゃれているつもりなんでしょうけど、気が強いためか、結構本気でガブリと噛みついてしまうのでシャレになりません。あの温厚なブースケを珍しく怒らせています。 　しかもパンダが噛む相手はブースケのみ。人間には絶対に噛み付いてこないところに、彼女の頭の良さというか、深慮遠謀さが感じられたりして（苦笑）。 　この子たち、あまり男女の相性が良くないのかなぁという気がしないでもないのですが、でも、半年ほどすればパンダも落ち着くかも知れませんし、もう少し気長に様子を見ることにしましょう。 　いずれにしても、犬の世界でも国際結婚は大変そうです。 　さてさて、今日はいくつか嬉しいお知らせがあります。 ●お知らせ　その1 　まず、これは今年の初秋になる予定ですが、第14世ダライ・ラマ法王猊下への単独インタビューが決定いたしました。 　法王猊下とは、過去にもパーティーの席上で2度ほどお目にかかったことがありますが、単独会見は今回が初めて。法王猊下には、直接お聞きしてみたいことがたくさんありますので、是非この機会に忌憚のないお話をさせていただこうと思っています。 　インタビューの行なわれる場所は、ヒマラヤ山麓の某所です。会見内容は『和樂』（小学館発行の月刊誌）などを通じて公開いたしますので、どうぞお楽しみに。 ●お知らせ　その2 　ここ何ヶ月か執筆に専念しておりました「死」をテーマとするノンフィクションの原稿が完成しました。 　実は、今回の本にはちょっとした仕掛けを用意しているのです。その関係で、（原稿が既に出来上がっているにもかかわらず）出版は11月頃になる見込みです。 　本のタイトル、出版社などは、申し訳ありませんが今はまだヒミツ。PRが解禁になりましたら真っ先にこのページでお知らせいたしますので、しばしお待ちください。自画自賛ですが、読み応えは十分です！ ●お知らせ　その3 　北インドのラダックで6月に行なわれる12年に1度の大祭を取材してきます。 　ラダックはヒマラヤ山中にある旧王国で、仏都として有名な場所。「山田真美の世界」的には、満奈ちゃんが鳥居さんやマーシーと一緒に雑誌の取材で出かけた先と言ったほうがわかりやすいかも。 　実は、そのラダックのマハラジャ（藩主）と私が古くからの友人であることから、今回の取材企画が実現しました。 　ラダックは、いちばん低いところにある街の海抜が3500メートル。街の中をインダス河が流れ、山全体が磁気を帯びた「マグネットの丘」など、怪しげなものがあちこちに点在。 　ムーンランド（月世界）という別名のとおり、まさに地球上とは思えない不思議な風景が広がる異空間でもあります。 　私はラダックは4年ぶりぐらいなので、もう嬉しくて嬉しくて、早く出かけたくてうずうずしております（笑）。こちらの記事も『和樂』にてご覧いただける予定です。 ●お知らせ　その4 　来年の3月から9月まで、名古屋で愛知万博が開催されますが、そのなかの「オーストラリア館」が発行する公式ガイドブックに、日本語と英語の両方でエッセイを執筆させていただくことになりました。 　不思議なことに、一昨年あたりから私の中では再びオーストラリアが（ほぼ20年ぶり！に）ブームになりつつあるんですよね。今年は年末に向けて2度ほどシドニーに行ってくることになりそうです。 　…というわけで、なにやら俄かに忙しくなってきましたが、なんと言っても嬉しいのは、2度のヒマラヤ行き。なにしろヒマラヤは私が地球上でいちばん好きな場所なのです。 　そのヒマラヤへ、年内に2度も行けるなんて。しかもそこで、ダライ・ラマ法王猊下にお目にかかれるなんて。 　自分自身の数奇な運命に、深く感謝する今日この頃なのでした。 　今日はこれからお茶のお稽古です。ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2004年 5月23日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年5月15日号(第133号) ブースケのお見合い （写真つきオリジナルバージョンはここからご覧になれます） 　それは今週の月曜日（5月10日）の夜のことでした。家族で中華料理を食べに行き、その帰り道に「腹ごなしに」と立ち寄ったペットショップで、一匹の珍しい犬を発見したのは。 　それはなんとも不思議な風貌の犬でした。 　なにしろ、顔はパグのような鼻ぺちゃのファニーフェイスのくせに、手足がスラリとひょろ長く、首から上と下がまるで別人（別犬？）。 「これは一体、何という犬ですか？」と尋ねたところと、お店のお姉さんからは、「これは純粋な日本犬で、犬種はチンといいます」という答えが返ってきました。 　ああ、これがかの有名な「チン」であったかと納得すると同時に、（ええっ、本当にこれが日本犬なの？）と、思わずしげしげと顔を見直してしまいました。 　だって、日本犬といえば目が細く吊り上って、耳の立った犬を想像しません？　（例えば柴犬とか秋田犬のような…）　それなのにこの仔犬ときたら、目は大きなどんぐり眼、耳は垂れていて、驚くほど手足が細長いスーパーモデル体型なんですもの。 　感心している私の横では、娘が盛り上がっています。娘は普段から黒×白のモノトーンファッションでキメているのですが、そういえばこのチンも白×黒。娘とチンが一緒に歩いたら、ヴィジュアル的にはピッタリかも。 　それにしてもこの白黒の感じ、どこかで見たことがあるような…？　そう思ったところに、 「この子を飼うようになったら、名前はパンダで決定ね」 という娘の声が。 　そう言われてみれば、ボディが白く、目のまわりと耳が黒いその姿は、確かにパンダそっくりじゃありませんか。 「でも、この子を飼えるかどうかは、まずはブースケに決めてもらわないと…」 　去年の2月12日に我が家にやって来たブースケも、早いものでもうじき1歳半。 　最近は散歩の途中、今まで以上にほかの犬に興味を示し、そろそろガールフレンドが欲しいのかなという感じがありありだったのです。 　ブースケはシーズーですが、一般的なシーズーよりもやや小型（体重5キロ）。チンは成犬になっても3キロ程度だそうですが、足が長いため、見た目の大きさはシーズーとそれほど変わりません。 　「本人同士さえ気に入れば、国際結婚も構わないんじゃない？」ということになり、ブースケととりあえずお見合いをさせてみて、双方が気に入るようなら、チンの女の子を家族として迎え入れようということで話はまとまりました。 　…というわけで、その翌日、ブースケを連れて再びペットショップを訪ねました。 　ペットショップの中で1時間ほど遊ばせてみたところ、ブースケのほうは満更でもない様子。さかんにパンダの気をひこうと頑張っています。 　一方のパンダはと言えば、我関せず。しつこく迫ってくるブースケのことは無視して、むしろ人間のほうに近づいてきて甘えたがります（なにしろまだ生後5ヶ月ですから、甘えたいのは無理もありませんよね）。 　でも、赤ちゃんにしては堂々として物怖じしない、気の強い態度はなかなか立派。YES・NOもハッキリしていて、ブースケがしつこく近づきすぎると、前足でブースケの横面をひっぱたいてピシャッと拒絶します（苦笑）。 　いろいろ考えた結果、パンダを山田家の一員として迎えることにしました♪ 　チンは漢字で書くと「狆」。ケモノ偏に中と書くだけあって、性格的にはかなり自己中心的というか、威張っているようです。 　そう言えば、狆は江戸時代に将軍様の寵愛を受けたことで有名な犬ですよね。第5代将軍綱吉のときには「生類憐みの令」まで作ってもらい、徳川時代から400年にもわたって甘やかされてきたおかげでジコチューになっちゃったのでしょうか？ 　ブースケはもともと気が弱いので、既にパンダに完全に尻に敷かれており、座布団をはじめ、オモチャ、ハーネスやリード、犬用ガム（牛皮で作られた棒状のおやつ）などを次々にパンダに略奪され、そのたびに私のところへ泣きついて来ます（ちょっとかわいそう）。 　狆が将軍様の寵愛を受けたように、シーズーだって西太后の寵愛を一身に受けていたやんごとない犬種なんですがねえ…。 　パンダには今後、やっていいこと・いけないことのケジメをビシッと教育しなければと思っております。 　そういうわけですので、皆さん、今後はパンダのこともよろしくお見知り置きください♪ 　なお、前号でお知らせした「讃岐うどんプレゼント」当選者は、抽選の結果、黒猫様、NAO様に決定いたしました。おめでとうございます。さっそく発送いたしますのでご賞味ください。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2004年 5月15日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年5月8日号(第132号) ジェームズ・タレルの青の世界 　子どもの頃、私には行ってみたい夢の場所がありました。 　それは、この地球上には実在しないであろうイマジネーション空間なのですが、一言でいうと、すべてが青い色でできている世界です。 　いま思い出すと何とも気恥ずかしいのですが、中学1年のときには『青の意味』という短編ファンタジーを書いて文集に載せたこともありました。ある朝主人公が目覚めると、あらゆるものが青になっているという場面から始まる、きわめてありがちなストーリー（笑）なのですが…。 　そんな文章を書いてみたくなるほど、当時の私は青い世界に憧れていたのでしょう。 　大人になってからの私も青を求める気持ちは変わらず、入浴時にバスタブの中にウォータープルーフの青いライトを入れてみたり（ちなみにうちのバスルームは壁面もバスタブも備品もすべて青）、家具をブルーで統一してみたり、ついには青い家を建ててみたり（私の東京宅はなんと外観がブルーです）、気がつけば（青一色とまでは言いませんが）、かなり青の分量が多い空間で暮らしている今日この頃なのでした。 　さてさて。先週の土曜日のことですが、小学館『和樂』の仕事で瀬戸内海の直島というところに行ってきました。 　実は私、四国に行くのはこれが生まれて初めて。こう言うと、 「ええっ？　世界中あちこち歩き回っているアナタが、四国に行ったこともないなんて、嘘でしょ？」 と驚かれてしまうのですが、なにしろ私の場合、10代の頃からお金と時間があれば海外に行っちゃってましたので、四国に行くチャンスにはついに恵まれなかったというわけなのです、ハイ。 　そんなわけで、私にとっては、これが正真正銘の四国初体験。『和樂』編集部の方からうかがった説明によれば、 「当日は朝5時45分に山田さんのお宅へハイヤーを差し向けますから、それに乗って羽田空港までいらしてください。羽田から飛行機とレンタカーとフェリーを乗り継いで直島へ行き、ベネッセアイランド文化村でお仕事をしていただき、それが済みましたらとんぼ返りで、夜の9時前には東京に戻りますので」 とのこと。 　ひぇ〜。初めての四国は、なんと日、日、日帰りでした…（涙）。 　　　― 中略 ― 　…というわけで、瀬戸内海に浮かぶ美しい島、直島に行ってまいりました。 　この島は、保元の乱に破れた崇徳天皇（在位1123〜1141年）が島流しにされ、失意のうちに没した場所です。島の名前がなぜ「直島」かと言えば、島の人々の「心の素直さ」に深い感銘を受けた崇徳天皇が命名したからだとか。 　直島の南端には、「進研ゼミ」や「たまごクラブ・ひよこクラブ」で有名なベネッセコーポレーションが経営するベネッセハウス（ホテルが併設された美術館）やキャンプ場（テントの形は、なんとモンゴルの「パオ」）などが点在しており、その一帯はベネッセアイランド文化村と呼ばれています。 　今回の取材目的は、直島に現在建設中（7月完成オープン予定）の「地中美術館」に行き、アーティストのジェームズ・タレル氏にインタビューすること。 　取材同行者は、『和樂』編集部の渡辺さん、カメラマンの森下昇さんと、アシスタントの木内さん。森下さん・木内さんとは、昨年のインド・ケララ州取材でご一緒して以来、ほぼ半年ぶりの顔合わせとなりました。 　ジェームズ・タレル氏といえば、アリゾナ州にある死火山の噴火口を再利用して天文台を作るという大プロジェクトや、光を使っての壮大なインスタレーション、それに空をテーマにしたアートなど、ともかくダイナミックで宇宙的な作品で知られるアメリカ人アーティスト。 　以前から、ぜひ一度はお目にかかりたいと思っていた方ですので、今回の仕事はまさに「待ってました！」という感じでした。 　ジェームズ・タレル氏へのインタビューは『和樂』8月号に掲載される予定ですので、ここでその内容に触れることは避けますが（タレル氏と私の間には、実は吃驚するような共通点があることも判明したのですが…まあ、それは『和樂』をご覧いただくということで…）。 　ともあれ、今回の取材を通じて大感動モノだったのは、タレル氏のできたての最新作である「青い部屋」（※）に足を踏み入れたこと。 　その部屋は、私がひそかに（こんな部屋が欲しいな）と前々から想い続けてきた、まさにその理想にドンピシャリの部屋だったではありませんか！ 　まるで宇宙船か神殿を思わせるおごそかな石の部屋の中には、静かに青い光が降り注ぎ、しかもその光には重量があって、その重量感をハッキリと肌で感じることができるのです。 　そして、部屋のさらに向こう側には、目もくらむような断崖絶壁の世界が…。 ※「青い部屋」というのはあくまでも私が勝手につけた仮の名前です。本当の名前は、これから発表される予定。 　…ああ、もうこれ以上は書けません。詳しくは、『和樂』8月号の記事を読んでください（笑）。 　それにしても、これほど哲学的なアート作品をつくりだすアーティストはどんな方なのかとお目にかかってみれば、そこに立っていたのは、サンタクロースのような風貌の素敵なひとでした。　 　今回、タレル氏とはわずか2時間ほどの邂逅でしたが、共通のスゴイ話題があったためにすっかり意気投合し、「近々アリゾナの死火山の噴火口で再会しましょうね！」と言ってお別れしました。 　ジェームズ・タレル氏がつくりだす世界は、いったん入るとその場から離れたくなくなってしまうほど、実に心地よいものです。 　それはおそらくタレル氏が、喜びも哀しみも突き抜けた向こう側にある、普遍のマンダラの世界をしっかり見据えたアーティストだからではないかと、私には思えました。 　タレル氏の作品は、東京・世田谷や新潟などの美術館にも収蔵されているそうですから、機会がありましたらぜひともご覧ください。自信をもってオススメします。 　なお、今回はとんぼ返りの取材旅行でしたので、買い物をする時間は飛行場での5分間だけでした（苦笑）。 　それでも根性で読者プレゼント（讃岐うどん）を買ってきましたので、ご希望の方は「讃岐うどん希望」と書いて、下記までメールでご応募ください（締め切りは5月14日）。2名さまに差し上げます。 ●プレゼント応募先：　boosuke@badboy.co.jp 　なお、ベネッセアイランド直島文化村に関する詳細は、下記ホームページをご参照ください。 ●ベネッセアイランド直島文化村ホームページ　http://www.naoshima-is.co.jp/ ●直島町ホームページ　http://www.town.naoshima.kagawa.jp/ 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2004年 5月 8日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年4月24日号(第131号) 父の遺伝子 　私が子どもの頃、実家には、父の碁のお弟子さんたちが出入りしていました。 　父は国家公務員でしたが、10代の頃から地方ではアマ棋士としてかなり有名で、関西棋院の長野支部長も仰せつかっていました。そんなわけで、父のもとにはたくさんの若いお弟子さんが集まっていたのです。 　その頃の父の姿といえば、思い出すのは浴衣を着て碁を打っている姿と、晩酌に軽くビールを飲んでいる姿。ヘビースモーカーで、いつも両切りのピースを喫んでいました。そのためか、私は今もこの煙草の匂いに、或る懐かしさを感じるのです。 　賭け事はやらず、暴力を振るうことも一切なく、「静」と「動」に分けたら、圧倒的に「静」のイメージが強い父でした。 　しかしその「静」は、休火山のように内側にただならぬ情熱を秘めた、言ってみれば「嵐の前の静けさ」的なものだったように思います。 　運動神経がよく、若い頃は文武両道の人だったようで、中年になってからもたまに竹刀を振っていました。父の兄も、剣道で何度か長野県第一位になったことがあるそうですから、もともと武道に秀でた家系だったのかも知れません。 　父の書棚には、難しい哲学書がうずたかく積まれていて、まだ小学生だった私は、キルケゴールやニーチェ、ヤスパースといった哲学者の本を勝手に拝借しては、わけもわからぬまま闇雲に読んでみたものでした。 　その書棚の奥のほうに一冊の大学ノートが挿してあって、開いてみると中身は、父が書きかけた短編小説でした。 　私は、何か見てはいけないものを見てしまったような気持ちで、急いで大学ノートを元の場所に戻しました。父は「詩人になりたかった」と言っていましたが、本当は小説家になりたかったのかも知れません。 　そんな父のことで、不思議に思ってきたことがひとつあります。 　棋士としての父は、アマチュアながら大勢のお弟子さんたちを有段者に育て上げ、頼りにされる存在でした。ところがおかしなことに、父は決して自分の子どもたちに囲碁を教えようとはしなかったのです。 　小学生の頃にたった一度だけ、こちらから頼み込んで手ほどきを受けたことがありましたが、それもほんの20分ほどで終わり。それ以上は、決して無理強いしようとしません。 　あとで大人になってから、父に、 「あれ以降、一度も囲碁の手ほどきをしてくれなかったのは、私に才能がないと思ったから？」 と半分笑いながら尋ねたことがあるのですが、それに対して父はしごく真面目な顔で、 「いや。そういうことではない。ただ、真美さんにはもっと別の道があると思ったから、無理に教えなかっただけだよ」 と答えたものです。 （※父は私が大人になると、敬意を表して名前を「さん付け」で呼んでくれました）。 　私には4つ年下の弟がいるのですが、果たして彼は父から囲碁を教わったことがあるのかどうか。おそらく、ないと思うのですが、あれだけ囲碁の強かった父が、なぜ自分の子どもには無理にそれを押し付けてこなかったのか…。 　私は、そんな父に感謝すると同時に、一度も父と対局できなかったことへの一種の申し訳なさのようなものを、心の隅で常に感じ続けてもいたのです。 　ところが、人生というのは面白いものですね。父とは一世代隔てた孫息子、つまり私の息子が、最近になって「本格的に囲碁を学びたい」と言い出したのです。 　息子は、現在インターナショナル・スクールの7年生（日本の中1に相当）ですが、私に似ず数学が得意で、小学2年生のときには数学だけ5年生のクラスへ、3年生のときには6年生のクラスへ飛び級をしていました。 　数学的な頭脳と囲碁とのあいだには、きっと深い関係があるのでしょう。 　これまでも世界中の人たちとインターネット囲碁を楽しんでいた息子でしたが、どうやら現実の世界で畳の上に正座をして碁を打ってみたいという気持ちが起こったようなのです。 　せっかくそんな気持ちになった息子に、立派な師匠を探してやりたい。しかし、実家の父は数年前から体調が芳しくなく、相談することができません。 　どなたにご相談したら良いのだろうと思いながら眠ったところ、その晩、不思議な夢を見ました。「夢日記」の4月9日のところにも書いておきましたが、それはこんな夢でした。 ------------------- 池の上に浮かんだ瀟洒な庵。 法務大臣の野沢太三先生と浅草寺日音院のご住職が、碁の達人を伴って現われる。 台湾の人のようにも思えるが、あるいは日本人なのかも知れない。 その人が少し指を動かすだけで、盤上に白と黒の綺麗な幾何学模様が描かれる。 まるで宇宙地図か曼荼羅のように深遠で美しい。 天才と呼ばれるだけあって、さすがに素晴らしい手筋だ。 （この先生なら、安心して息子をお任せすることが出来る）と私は思った。 ------------------- 　この夢にどんな意味があるのかわかりませんでしたが、野沢先生とは長年の家族づきあいをいただいており、これまでにも人生の色々な局面で貴重なアドバイスをいただいております。 　きっと今回も素晴らしいご意見を聞かせてくださるに違いないと信じ、さっそくご自宅にお電話してみました。 　すると驚いたことに、野沢先生はご自身が囲碁の有段者だと言うではありませんか。「師匠探し」についてご相談申し上げると、ただちに素晴らしいアイデアをいただくことが出来ました。 　野沢先生のおっしゃるとおりにしてみたところ、すぐに立派な師匠が見つかり、息子は先週から早くも教室に通わせていただいております。 　息子が囲碁を教えていただくことになった師匠は、藤沢一就（かずなり）先生とおっしゃって、現在八段。日本棋院の理事も務めていらっしゃいます。年齢的には、うちの弟と同い年です。 　ちなみに一就先生のお父さんは棋聖6連覇、史上最高齢の66歳で王座のタイトルを獲得なさった、藤沢秀行（しゅうこう）先生。秀行先生は、「金は天下の回り物」を座右の銘（？）に借金をしまくり、競輪に注ぎ込んで「日本棋院の借金王」とまで呼ばれた破天荒なかたですが、漢詩や書をたしなむ風流人としても知られ、まさに囲碁界における伝説の風雲児らしいのですね。 　第一回目の教室を終えて帰宅した息子の第一声は、「最高に面白かった」でした。 　息子が囲碁教室に通うことになったと実家の母に伝えましたところ、私の想像をはるかに上回る喜びようで、母からそのことを聞かされた父も、それはそれは喜んでくれたそうです。 　私自身は、ついに囲碁を学ぶチャンスはありませんでしたが、いつの日か息子から教わることができたらと思うと、こんなに楽しいことはありません。 　まあ、それは老後の楽しみということで（笑）。今は息子の成長をじっと見守りたい私なのでした。 　ではでは♪ ※来週の土曜日は、小学館「和樂」の取材のため瀬戸内海の直島に行ってまいります。「週刊マミ自身」次回更新は5月8日を予定。読者プレゼント（直島土産）も予定していますので、お見逃しなく！ 　事事如意 　　　　　2004年 4月 24日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年4月17日号(第130号) 試写会にて 　今週も、なにかと忙しい1週間でした。 　年度の始まりは、どうしてもあれこれと行事が重なりますね。入学祝いに就職祝いとお祝い事が続き、しかも我が家の場合は姑の七回忌の法事も加わったりして、あっという間に過ぎた1週間でした。 　そんな中、お友達の石坂邦子さんから、武道館での映画試写会にお招きいただきました。 　石坂さんは、平幹二朗さんや草刈正雄さん、SABUさん、中村橋之助さん、前田美波里さん、三田寛子さん、春風ひとみさん、岡幸二郎さん、音楽家の都倉俊一さん、ジョージ・チャキリスさんなど錚々たるメンバーが所属する芸能プロダクション、クリーム・インターナショナルの代表で、国内のさまざまな映画祭の実行委員も務めていらっしゃいます。 　そもそも私は現代映画にはまったく不案内なのですが、最近は石坂さんが映画関係のパーティーや試写会にたびたび招いてくださるものですから、ミーハー気分であちこちに顔を出させていただいているというワケです。 　さて、今回のプレミアム試写会で上映される作品は、ディズニーの新作「ホーンテッド・マンション」。ディズニー映画といってもアニメーションではなく、実写版（エディー・マーフィー主演）のゴースト・ストーリーです。 　しかも、石坂さんいわく、 「試写会の前に、あのプリンセス天功のマジック・ショーもあるの。なんでも、天功さんがディズニーランドのホーンテッド・マンションからヒントを得て考案した新しいイリュージョンらしいのよ。真美さん、マジック大好きでしょう？　是非いらっしゃらない？」 　この一言で、マジック好きな私の耳はピクピクッ。 　プリンセス天功は、言うまでもなく、アメリカと北朝鮮を股にかけて活躍するという、トンデモない偉業を成し遂げた女性イリュージョニスト。特にアメリカでは、彼女が主役のアニメやフィギア（人形）が爆発的にヒットしたほどの人気者です。 　ご存知の方も多いと思いますが、プリンセスは、急逝した先代の引田天功さん（男性）のあとを継いで襲名するまでは、朝風マリちゃんという名前のマジックも出来るタレントさんだったんですよね。 　私の記憶が間違っていなければ、当時はたしか「ザ・マジック」という歌を歌っていらっしゃったと思います。 「もうすぐあなたは眠くなる♪　心の鎖を抜け出せる♪　そして私を抱くのです♪」 というような歌詞でした（笑）。 　それから1980年頃には、「電子戦隊デンジマン」という番組にもゲスト出演していたような記憶が…。 　ともあれ、年齢不明のお人形さんのような雰囲気は、朝風マリちゃん時代でストップしたまま今に至るわけですが、実年齢は、どう計算しても40代後半（＝私より年上）のはず。 　う〜ん。謎だ。やっぱり一度はホンモノのプリンセスを見ておきたい！ 　…というわけで、「ホーンテッド・マンション」を観るためと言うよりはプリンセス天功さんを観るために、武道館に行ってまいりました。 （お席は1回アリーナ席の、なんと「Q列99番」！　もしや999人のゴーストに呼ばれた！？） 　こういう試写会って、（マスコミが取材に来ているせいでしょうが）芸能人の皆さんが大勢お見えになるんですね〜。 　ご用意いただいた席に行ってみれば、すぐ近くには神田うのさん、林寛子さん、三田寛子さんなどなど、芸能音痴の私でも知っている有名どころの皆さんが、たくさん座っていらっしゃってビックリ。 　あとは、アテネ・オリンピック出場が決まったスポーツ選手とか、漫画家さんの姿も見えました。 　会場にはお友達のサエキけんぞうさんの姿も。ふたりの第一声は、「叶姉妹は来ないかな〜」（笑） 　この日、プリンセス天功が披露なさったマジックは、箱の中から消えたと思えば再び現われるという、基本的なイリュージョンでした。 　マジックの世界を知りすぎている私としては、大体のタネがわかってしまうだけに、純粋に「わぁ〜」「すご〜い」と心酔することは無理なのですが…、エンターテイナーとしてのプリンセス天功は、プロに徹していて立派な人だと思いましたよ。 　特に、しなやかに鍛えられた肉体には脱帽。おそらく、食事制限を含む厳しい自己管理をしていらっしゃるのでしょう。普通の人には出来ないことです。 　それをこの目で見ただけでも、武道館まで行った甲斐がありました。 　「ホーンテッド・マンション」のほうは、物語的には「身分違いの悲恋」に「家族愛」と「冒険心」を散りばめた、豪華でコミカルなゴースト・ストーリーという感じ。かなり古典的な筋立てでした。 　CG効果はさすがに綺麗でしたけれど、ね。何も考えずに息抜きに見る娯楽映画としては、悪くないかも？ 　でも正直なところ、この映画には何かが決定的に不足しているような気がしましたね。「どうしても、今このことを伝えたい！」という切実なメッセージ性が少しも感じられなかったんですよ。 　ウォルト・ディズニーが元気だった頃の初期の名作（「砂漠は生きている」とか）を、もう一度観たくなった私なのでありました。 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2004年 4月 17日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年4月10日号(第129号) 古稀のお祝い 　建築家の黒川紀章先生の70回目のお誕生日をお祝いするため、日頃から親しくさせていただいている仲間が集まってお祝いをして参りました。 　いつもなら西麻布か南青山あたりのカフェ・ダイニングに行くことが多いメンバーなのですが、今回は趣向を変えて、ぐっと和風レトロに決めてみました。 　その場所とは、清澄公園。その昔、紀伊国屋文左衛門の別荘だったところです。 　都営地下鉄大江戸線の清澄白河駅から徒歩3分、近くには江戸深川資料館など見所もたくさんありますから、機会がありましたら、ぜひ遊びにいらしてください（って、私の家でもないのに招待してどうする（笑））。 　ところで黒川先生のお誕生日は、お釈迦様と一緒の4月8日。う〜ん、さすがは建築界の巨匠。誕生日もバッチリいいところを押さえていらっしゃいます。 　私から見た黒川先生の凄さは、日本の建築界であぐらをかくことなく、次から次へと海外の建築コンペに挑戦してゆかれるところ。日本人には珍しい、とてつもなくスケールの大きなチャレンジャーなんです（この日も夜遅くまで二次会を楽しまれた後、翌朝一番の飛行機で、仕事のプレゼンのために中国に飛んで行かれました）。 　人生の平均睡眠時間が2〜3時間という、信じられないほどのバイタリティーに、私たち若者（←古稀の先生から見たら私もれっきとした若者♪（笑））は魅了されているのだと思います。 　先生いわく、「100歳まで生きます！」。 　…ということは、この先私たちは先生のために喜寿（77歳のお祝い）、傘寿（80歳のお祝い）、米寿（88歳のお祝い）、卒寿（90歳のお祝い）、白寿（99歳のお祝い）の宴を催させていただけるわけですね？ 　ちなみに、100歳のあとには茶寿（108歳のお祝い）、皇寿（111歳のお祝い）、珍寿（112歳のお祝い）と続きますので、ぜひぜひ、いつまでもお元気で大活躍なさって欲しいと思います。 　ではでは。 ※おまけのトリビア 喜寿＝「喜」の草体が「七十七」と読めるので、77歳のお祝いのこと。 傘寿＝「傘」の略字が「八十」と読めるので、80歳のお祝い。 米寿＝「米」の字をばらすと「八十八」となるので、88歳のお祝い。 卒寿＝「卒」の略字は「九十」と読めるので、90歳のお祝い。 白寿＝「百」から「一」を引くと「白」となるので、100−1＝99歳のお祝い。 茶寿＝「茶」の字の草冠の部分を「廿」に見立てて「20」、その下の部分を「米」に見立てて「88」。20＋88＝108なので、108歳のお祝い。 皇寿＝「皇」の字を上から順に「白」「一」「十」「一」と読んで、99＋1＋10＋1＝111歳のお祝い。 珍寿＝112歳以上は珍しいから、という、ちょっといい加減な理由の命名（笑）。なお、112歳以上はずっと「珍寿」ということで、毎年お祝いをするのだそうです。 　事事如意 　　　　　2004年 4月 10日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年4月4日号(第128号) 春に死す 　仕事の打ち合わせがあって、昨日は上野動物園の飼育課長さんに逢いに行っていました。 　拙宅から上野公園までは、歩いて行ける距離です。 　天気の良い土曜日だったせいでしょうか、表通りは散歩人でいっぱい。混雑を避けて、一本裏通りを歩いて行くことにしました。 　上野公園が近づいてくると、缶チューハイとおつまみが山ほど入ったスーパーのビニール袋を提げた若い人たちの一団が、後方から近づいて来ました。お花見の席取りにでも行くのでしょう。公園のほうに向かい、楽しそうに笑いながら小走りに駆けて行きます。 　それを見てようやく、今日はまだお花見に間に合うことに気づきました。 　そのへんにあった街路樹の桜を見上げれば、もう三割がた葉桜になっているものの、ひらひらと舞い落ちる花びらは満開のときよりもむしろ風情があって、なかなか好い感じ。 　ビニール袋を提げた若者たちが私を通り越して行った直後、もう少し先の道路の右脇に、ひとりの男性が倒れているのが見えました。 　肩のあたりまで伸びたぼさぼさ髪と、伸ばし放題の髭。着の身着のままといった様子。ひと目でホームレスの男性だとわかります。反射的に「行き倒れ」という言葉が浮かびました。 　若者たちは、お花見のことで頭が一杯だったのでしょう。行き倒れの男性には少しも気づかない様子で、楽しそうにお喋りをしながら通り過ぎて行きました。 　ホームレスの男性が倒れていたのは、小さな児童公園のすぐ脇。そこにも桜の木があって、あたりは一面の花びらの絨毯です。男性は、普段はこの公園で生活していたのかも知れません。 　男性のすぐそばには、制服を着た消防署員がすでに到着していて、何かしきりに話しかけています。しかし、男性からの応答はありません。 　そう言えば、男性が倒れているその場所は消防署のすぐ裏手だったのです。消防署員は、誰かから通報を受けたのではなく、おそらく勤務中にたまたま行き倒れのホームレスを発見したのでしょう。 　最初の署員から連絡を受けたのか、その直後には、さらに3人ほどの消防署員が集まってきて、何か器具を使って男性の体を検査しはじめました。どうやら生体反応の有無を調べているようです。 　私は、見知らぬホームレス男性のことが何故か気になって、その場から立ち去ることが出来なくなっていました。 　そこで、消防署員さんたちの邪魔にならないよう、少し離れた場所に立って、もう少し様子を見守ることにしたのです。 　男性は、消防署員さんから話しかけられても、体に触れられても、一切何の反応も示さないようでした。 　よく見ると、男性の手にはしっかりとビニール袋が握られています。袋の中身は、まだ栓を開けていない1本の缶ビールです。 　もしかしたらこの男性は、これから独りでささやかなお花見でもしようとしていたのでしょうか。彼の口元に、かすかな微笑みが浮かんでいるのがとても印象的でした。 　この人は、生前はさぞや色々なことがあってここに流れ着いたのに違いありません。 　家族はいたのか。待っている人はいないのか。この世に未練はなかったのか。こんなところで野垂れ死にしたのですから、おそらく語るに語れない事情もあったことでしょう。 　けれども最期は、おそらく何の痛みも苦しみもなく、桜の花びらに抱かれて息を引き取った。黙っていてもそのことがわかる、とても穏やかな死に顔でした。 　男性が倒れていることには少しも気づかずに、楽しそうに駆けて行った数人の若い男女。行き倒れた男性にも、きっと一度はそんな楽しい日々があったことでしょう。 　私がそこに立っていたのは、ほんの5分か10分ほどでしたが、そのわずかな時間に、随分と色々なことに想いを巡らした気がします。 　インドで日常的に見かけた、それこそたくさんの行き倒れの人たちのこと。今年出版を予定している、「死」をテーマとしたノンフィクションのこと。死ぬということ。生きるということ、等々。 　このとき私の胸中にふと去来したのは、西行法師の 「願わくば　花の下にて　春死なむ　その如月の　望月のころ」 という歌でした。 　どんな理由があったにせよ、人生の行き着く先がホームレスだった男性の死に方を「理想の死」と呼ぶことは、さすがに難しいでしょう。 　ただ、如月のある日（※注）、桜の褥（しとね）の上で眠るように息絶えたあの人の最期は、そう捨てたものでもなかったのではないか。―そんなふうに思えてならないのです。 　人間到るところ青山あり。合掌。 ※注 「如月（きさらぎ）」：陰暦の2月のこと。現在私たちが使っているカレンダーでは、今はもう4月です。ただし今年（2004年）は、太陰暦では“閏2月（うるうにがつ）”があるため、昨日（新暦の4月3日）は、旧暦の閏2月14日に当たります。 　事事如意 　　　　　2004年 4月 4日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年3月28日号(第127号) 香りを聞く 　昨日（3月27日）、鎌倉の鶴岡八幡宮で行なわれた献香式という珍しい儀式に参加してまいりました。 　鶴岡八幡宮では昨秋、御本殿が新築されたのですが、献香式というのはその御本殿に香りを献上する儀式のこと。 「皇室関係の方とか、それに連なるやんごとない血筋のかたがたもお見えになるお席だけど、あなたもいらっしゃる？　いらっしゃれる場合、お召し物は和服なら訪問着かそれ以上のもの、洋服ならそれに準じるお支度でいらしてね。あと、古袱紗（こぶくさ）と塗りのお扇子もお持ちになったほうがいいわ。献香式と、それにつづく聞香の会で、あわせて数時間は正座していただくことになるから、そのことも心しておいてね」 　…こんなお声がかかったら、あなたならどうしますか？　世間を知っているオトナなら、 「あらまあ、とんでもございません。そのような畏れ多い場所は、私のようなふつつか者には勿体のうございます。おほほほ…」 と辞退するのが世間の常識ってものなのかも知れません。 　あるいはそれ以前に、やれ「ドレスコードは訪問着かそれ以上」だの、「数時間は正座」だのと言われた段階で、（そんな面倒なことに関わりたくない）と思う人も少なくないでしょう。 　でも、鶴岡八幡宮のように格式の高い神社の献香式なんたって、死ぬまでにそう何度も体験できない貴重なイベントじゃありませんか。しかも当日は、献香式のほかに聞香遊びもあるというのです。 　元来が好奇心の塊である私は、二つ返事で即答しておりました。 「献香式に聞香ですか！　面白そう！　ぜひぜひぜひとも参加させて頂きます♪」 　かくして、生まれて初めて本格的に香道にチャレンジさせていただくことになりました。 　当日は、せっかくの香りを邪魔しないため、香水の使用が不許可なのはもちろんのこと、ヘアスプレーも朝シャンも厳禁。納豆やネギ、キムチその他もろもろの、ニオイのきつい物を食べることも禁止。 　とにかく何の匂いもしない無臭状態で神社に来てくださいとのお達しです。 　実はその前夜、私はブータンから来日中のVIPや日本外務省のOB、浅草寺のご住職らと一緒に赤坂のインド料理屋で会食だったんですよね。 （インド料理といえばスパイスがどっさり） 　　　　　↓ （しかも店内には強烈なインドのお香の匂いが立ち込めているし） 　　　　　↓ （翌朝までに完全に匂いが消えるか心配だなぁ…） 　　　　　↓ （でも、消臭スプレーをかけてマウス・ウォッシュすれば、きっと大丈夫、大丈夫） というような心配が若干あったので、前夜はなるべくスパイスの効いていないお料理だけ食べるように心がけながら、当日に備えたのでありました。 　…というわけで、行ってまいりましたよ、献香式。 　午前10時に始まった式は、まずは神主さんによる参集者のお祓いから始まりました。 　それが終わると、雅楽にあわせて太鼓が鳴り響き、その音にあわせて遠くのほうから、今回の式を執り行なう香道御家流（おいえりゅう）の家元、三條西堯水先生が、神主さんに伴われ、しずしずとご入場。 　次いで神主さんにより祝詞（のりと）が上げられ、「畏こみ畏こみ申す〜」と終わったところで、いよいよお家元による献香の儀です。 　儀式自体は、非常に短いものでした。 　御本殿のいちばん奥まった高いところにある祭壇で、お家元が最高級のお香を炊かれたわけですが、これがなんとも馥郁（ふくいく）とした素晴らしい匂い。 　参集者は全員が「香水なし、朝シャンなし」で来ているため、御本殿は無臭状態。いろいろな匂いがごちゃまぜになった街中で嗅ぐのと違い、お香の匂いだけが際立っていましたね。 　お家元は衣冠束帯。それに参集者も、ほとんどが春らしい明るい色の訪問着を着ているため、なんだか御本殿の中だけ『源氏物語』の時代にタイムスリップしてしまったような優雅さなのです。 　献香式が終了した後は、同じ鶴岡八幡宮の敷地内にある斎館に場所を移し、いよいよ聞香がはじまりました。 　聞香とは、一言でいうと香りを聞きわけて名前を当てるゲームのこと。ご存知のとおり、日本語ではお香を「嗅ぐ」とは言わず、「聞く」と言うんですね。 　聞香にも個人戦から団体戦までいろいろなゲームの仕方があるようですが、今回私たちが行なったのは、いちばん一般的なやりかたの個人戦です。 　まず、参集者全員がコの字型に座ります。座席順は、あらかじめ決められています。私は、頭から数えて7番目のお席でした。 　お部屋の正面には、参集者全員と対座するかたちで献香者（お香を点てる人）と書記が座ります。書記は議事進行をしたり、ゲームの結果を紙に書き出す係の人ですから、当然、お習字のうまい人でなければ務まりません。 　次に、本日のテーマが言い渡されます。今回のテーマは、春の季節にふさわしく「つみくさ香」でした。 　それから、手記録紙と呼ばれる和紙と、筆、硯（すずり）などが渡されます。 　手記録紙をいただいたら、表面のいちばん下の部分に、自分の名前を筆でしたためます。その場合、フルネーム（山田真美）ではなく、下の名前（真美）だけを書き入れるのが決まり（俳句や短歌などもそうですよね）。 　流派によっては、「真美」ではなく「まみ」と平仮名で書かせるところもあるようです。 　そのあと、お試し香というものが回ってきます。今回は「つみくさ」というテーマにふさわしく、「つくし」「わらび」「芹」と名づけられた3種類のお香が、それぞれ別々の香炉に入れられて1番の人から順に回ってきました。 　香炉は、湯飲み茶碗をひとまわり大きくした程度のもの。この香炉を鼻に近づけて香りを聞くのですが、そのときの香炉の扱い方や呼吸の仕方にも決まり事があって、たとえば香りを聞いていいのは3回までと決まっています。 　また、息を吐き出すときに、上座に向かって吐いてはいけません。必ず下座のほうに顔を向けて息を吐きます。 　香炉を前の人から受け取ってから次の人に渡すまでのお作法は、基本的には茶道と同じと考えてよさそうです（取り上げた香炉はまず陰で2回まわし、香りを聞き終わったら陽で2回まわしてから、次の人と自分の間の畳の縁の外に置く、など）。 　お試し香では、要は3つの香りを記憶すればいいのですが、これが言うは易く行なうは難し。 　なにしろ似通った種類のお香が使われる上、いくつものお香を聞いているうちに鼻が麻痺してしまい、次第に嗅覚がおぼつかなくなってくるんですよ。 　そうこうしているうちにお試し香が終わり、いよいよ本香です。 　本香では、お試し香で出た3つの香りと、もうひとつ未知の香りの、あわせて4種類のお香がそれぞれ別の香炉に入って順に回ってきます。 　未知の香りには、仮の名前がつけられています。仮の名前には、片仮名の「ウ」という文字が使われることが多いようです。 　4つの香りを聞き終えたら、手記録紙を開き、あらかじめ四つ折になっている紙の右から3番目の余白の部分に、本香で出題されたお香の名前を上から順番に書きます。たとえば、「つくし、芹、わらび、ウ」というように書くわけです。 　答えを書き終わると、紙が回収されます。緊張の解けた参加者は、このときになってようやく笑顔を取り戻し、隣同士でわいわいお喋りを始めるんですね。 「ねえ奥様。第一香は、何だったと思います？　私は“芹”と書きましたけど」 「あら、いやだ。私は“つくし”と書きましたわ」 「ええ？　それでは、第二香は？」 「第二香は、あれは“わらび”でしょう」 「まあ、どうしましょ。私、“ウ”と書いてしまいましたのよ」 　そうこうするうちに、書記の人が大きな紙に書き出してくれた全員の答えが発表になります。つまり、誰がどんな答えを書いたか、この時点ですべてバレちゃうってわけですね。 　全問正解した人の名前の下には、「籠満ちる」という赤字が入ります。これは、「すべての草を摘むことが出来たので籠が一杯になった」という意味なんですって。ひとつでも間違った人の名前の下には、「日暮」という赤字が入ります。草を摘み終えないうちに日が暮れて、時間切れになったという意味ですね。 　「100点」とか「0点」と数字で点数をつけられるよりも、このほうがずっとユーモアがあって優しい感じがしませんか？ 　今回のお香遊びには30人ほどが参加したのですが、そのうち全問正解者はたったの2名。何十年も経験を積んだ人たちでさえこうなのですから、香りを聞き比べるということがいかに難しいか、おわかりいただけるでしょう。 　ちなみに私は前日のインド料理が祟ったのか、なんと全問不正解でした（苦笑）。 　利き酒だったら自信があるのになぁと、ちょっぴり残念。この次はぜひとも、籠を摘み草でいっぱいにしたいと思います。 　お茶のお稽古をしていても感じるのですが、茶道とか香道のような非日常的な異空間に身を置いてみることって、結構なストレス解消になりますよ。仕事とか勉強とまったく次元の違うところで、適度な緊張と緩和、それに何かを達成したという深い充足感も味わえますから。 　昔の人が考えた究極の大人の遊びの中で、子どものときのような無邪気さを取り戻すことも出来ますし。 　なお、お香全般に関しては、今回の聞香の集まりを主催なさった鬼頭天薫堂さんのホームページに詳しく載っています。香道の教室も開いていらっしゃるそうですから、ご興味がおありの方はこちらをご覧ください。 　http://www.tenkundo.co.jp/ 　ではでは♪ 　事事如意 　　　　　2004年 3月 28日 　　　　　　　　　　　山田 真美 2004年3月13日号(第126号) 夢占い 　ネット上では知っているけれど現実世界ではお会いしたことのない「Rさん」という女性の姿が、夢の中にハッキリと現れたことは「夢日記」にも記しましたが、そのRさんからお写真が送られてきました。 　驚いたことには、夢で見たRさんと写真に写ったRさんは、明らかに同一人物だったではありませんか！ （※事の顛末については、「夢日記」3月6日分をご参照ください） 　世の中には本当に不思議なことがあるものだと、首をかしげながら感心していたところ、Rさんご本人から面白いサイトを教えていただきました。 　自分が見た夢の要旨を端的に書いてクリックするだけで、その場ですぐに夢占いをしていただけるという、ぐっちゃんの夢占いなるお役立ちサイトです。 　ぐっちゃんの夢占いURL　http://dream.kdn.ne.jp/index.html 　 　実は私、この手のサイトを訪ねてみるのは、これが初めて。興味津々に、早速占ってもらうことにしました。 　どうせなら、何か象徴的なモノが登場する夢のほうが占い易いのではないかと思い、3月8日の夢で占ってみました。3月に入ってから6日と8日に続けて家を買う夢を見ており、一体どういう意味かしらと気にもなっていましたので…。 　占ってもらう夢（大意要約）は次のとおりです。 ≪夢の内容≫シドニーに中古住宅を買った。明るい窓が印象的。眠っている私を娘が起こしに来た。見ると、緑色の長いローブに緑色の帽子をかぶっている。外は大雨だが、娘は平気そう。温かく、気持ちの好い雨。娘が新しい学校へ出かけたあと、大勢の若い女性が家にやって来た。私たちは楽しくお喋りをする。場面は変わり、広々とした河原。25歳ぐらいになった息子（実際には中学生）が隣にいる。もうすっかり一人前だ。ほかにも若い男性が大勢いる。全員、知的で誠実な感じの子ばかりだ。 　この夢を入力し、「占う」アイコンをクリックしたところ、1秒もかからずに「占い結果」が表示されました。どうやら瞬時にキーワードを拾って意味を占ってくれるプログラムらしいんですね。 　返ってきたメッセージは、次のとおりでした。 ≪占い結果≫あなたの夢は、経験を積んで得た、自分でも気付かなかった一面の発見を示しています。あなたは挫折や悲しみ、喜びなど様々な経験を通して、精神的に一段階ステップアップしました。今までの自分なら許すことができなかった事も、これを機に物事を真正面から受け止めたり平然と受け流すことができるでしょう。 　わずか1秒でこれだけの内容を占うとは、たいしたものです。 　また、大事なキーワードだけがハイライトされ、どんなアイテムが吉兆であるかも教えてくれるので、とっても便利。この夢の中では、雨がラッキーアイテムと出ました。 　すっかり面白くなって、もうひとつの気になっている夢も占ってもらうことにしました。今度の夢は、2月21日から22日にかけて二夜連続で見た夢です。 《夢の内容》白ひげを生やした3人の仙人が私に会いに来た。彼らは大学教授のようだ。私に対して、非常に協力的。このほかにもうひとり、頭の切れる軍師がいるらしい。私はその軍師に会ってみたいと強く願う。翌日、私が滞在している武家屋敷に軍師が到着した。私は軍師の部屋へ行き、そっとふすまを開けてみた。すると、そこにいたのは担当編集者ではないか。ようやく軍師の正体がわかった。私は相手に気づかれないよう再びふすまを閉めた。 　仙人だの軍師だの、なにやら非現実的で怪しいものが登場する夢なのですが、占い結果は次のような内容でした。 ≪占い結果≫あなたの夢は、問題に突き当たるが理性的な判断と対処でテキパキと片付き、その結果大きな成果を手にすることができることを意味しています。これまで行き詰まっていた人事や、うまくいかなかった問題が解決に向かっていきます。周囲に努力が認められ、評価もぐんぐんあがっていくでしょう。出世、昇進などもあるかもしれません。周りへの感謝の気持ちを忘れずに。 　…この占い結果には、大いに納得させられました。と言うのは、この夢を見た後で、ここ何年か行き詰まっていた問題のいくつかが一挙に解決したからです。 　具体的には、仕事上で捜し求めていた人材と、一挙に3人も巡り会えたのです。3人はそれぞれ、経済、宗教、芸術文化と、全く異なる分野のエキスパート（ちなみに、3人の間には一面識もありません）。 　夢の中に現れた3人の仙人は、私の人生にもうすぐ現れる3人の賢者の存在を、シンボリックに予想していたのではないでしょうか？ 　皆さんも、もしも夢の意味に迷われたら、春の一夜、夢占いに興じてみてはいかがでしょう。貴重なサイトの存在を教えてくださったRさん、どうもありがとうございました♪ 　さて、今夜の夢でお逢いするのは誰かな？　夢の入り口に鍵はかけてありませんので、どうぞ、ぶらっと遊びにいらしてくださいネ（笑）。 　ではでは♪ ※今週から暫く信州の山小屋にこもります。「週刊マミ自身」の次回更新は3月27日を予定しています。 ※インドのマジシャン姉妹（魔法少女パールと妹のジニアちゃん）の日本公演は、今年のゴールデン・ウィーク開催では準備時間が心許ないため、開催時期を少し先に延ばしていただくことになりました。無理をすれば5月開催も絶対無理というわけではなかったのですが、きちんと時間をかけて納得のできるものを企画するのが正しいやり方だと思い、あえてそのように致しました。なにとぞご了承ください。企画が本決まりになり次第、直ちにこのページでお知らせいたします♪ 　事事如意 　　　　　2004年 3月 13日 　　　　　　　　　　　山田 真美