Mami Yamada｜作品

※山田真美が立案・制作協力いたしましたドキュメンタリー番組「カウラの大脱走」が
次の日程で放送され、お蔭さまで好評を博しました。心より御礼申し上げます。

※山田真美が制作協力いたしました日本テレビ開局55年スペシャル番組「あの日、
僕らの命はトイレットペーパーよりも軽かった―カウラ捕虜収容所からの大脱走」
（主演／小泉孝一郎、大泉洋）が次の日程で放送されます。

訳者インタビュー

朝日新聞　1996年2月6日（火曜日）

敗戦から50年あまりの年月が過ぎた。はたして日本は生まれ変わったのだろうか。
　「戦争に参加したのは仕方のないことだった。国民すべてが一種のマインドコントロールを受けていたのだから」。こんな言葉をよく聞く。当時、時の権力者による戦争教育や情報操作が行われていたのは事実だ。しかし、同一方向に流されやすい国民性は、戦後ある意味でさらにひどくなったのではないか。
　たしかに現代、情報化社会と言われるほど、情報量は増えた。豊富な情報の中から、だれもが主体的に物事の判断材料を選びとっているようにみえる。だが例えば、全国紙や報道番組のトップニュースに大差はあるだろうか。海外ニュースにしても、アメリカ中心主義は一貫して変わっていない。情報を選んでいるつもりで、実は選ばされているという状況は、いまもけっして変わっていない。
　マニュアル主義の教育が、画一化に甘んじる国民性をさらに助長している。「１＋１」がなぜ2になるのかと疑問を持ったり、人と違う考え方をしたりする子どもは脱落し、いじめの対象にもなる。個性を認めない教育は、人と違う判断をする自身を拒む教育でもある。
　歴史認識についても、まだまだ薄っぺらだ。たしかに、学校の教科書には戦争の記述が増えた。しかしどれを見ても、この国がどこに向かって進んでいくべきなのか示してはくれない。また、日本の戦争責任についていろいろな国の人がいろいろな議論を戦わせているが、十分に紹介されているとは言えない。戦争を考えるうえでの基本的な材料が、少なすぎるのだ。為政者にとって、こんなに扱いやすい国民はないだろう。
　最終的には、判断材料は個々人の努力でつかみとるしかない。「政府が悪い」「教育が悪い」と頼るのは、そろそろおしまいにしなければならない。
　大多数の国民が同じような生活様式、思考様式で暮らしている国が、内側から変わるのは難しい。カルチャーショックを受けること、真の意味での国際化が不可欠だ。
　オーストラリアやアメリカ、インドなど海外各国で仕事をし、暮らしてみて痛感する。どの国でも「日本人は人間として尊敬されていない」ということを。
　経済力すら失ったとき、日本人は誇りを持って生きていけるだろうか。世界の中で胸を張って生きるため、自分の己（こ）を持ち、他者の己も認められる人間になりたい。
　正しい自信と、自分を語る言葉を持つことから、戦後の第一歩がようやく始まる。
　（『生きて虜囚の辱めを受けず』の訳者として現在の日本人に何を伝えたいか？とのインタビューに答えて）